米国居住者の全世界所得課税と日本の金融資産
米国市民権保持者や永住権保持者(グリーンカード保持者)は、米国の税法上「米国居住者」とみなされ、その居住地に関わらず全世界の所得に対して米国で課税されます。これは、日本で得た年金や生命保険の解約返戻金も例外ではありません。しかし、日米租税条約を適切に適用することで、二重課税を回避したり、特定の所得が米国で非課税になったりする場合があります。本記事では、日本の年金および生命保険の解約返戻金が米国でどのように取り扱われるか、Form 1040での申告方法と日米租税条約の適用について解説します。
日本の生命保険解約返戻金の米国課税
課税の原則
日本の生命保険を解約し、解約返戻金を受け取った場合、支払った保険料の総額を上回る部分(利益相当額)は、原則として米国の課税対象となります。この利益は、通常、普通所得(Ordinary Income)として扱われ、Form 1040のSchedule 1 (Additional Income and Adjustments to Income) のPart I, line 8z (Other income) などに計上されます。
日米租税条約(第21条:その他の所得)の適用
日米租税条約の第21条(その他の所得)では、「一方の締約国の居住者が取得する所得で、この条約の他の条文に規定されていないものは、その居住地国においてのみ課税される」と定められています。米国居住者が日本の生命保険の解約返戻金から利益を得た場合、この利益は通常、米国のみで課税されることになります。したがって、日本で源泉徴収された税金がある場合、日本での還付手続きが必要となる場合があります。もし日本で課税された税金が還付されない場合、米国で外国税額控除(Form 1116)を申請できる可能性がありますが、まずは日本での還付を検討することが一般的です。
日本の年金収入の米国課税
課税の原則
日本の年金(厚生年金、国民年金、企業年金など)を受け取る米国居住者は、原則としてその年金収入を米国で申告する必要があります。年金収入は、Form 1040のSchedule 1, line 5b (Pensions and Annuities) に計上されます。
日米租税条約(第17条:年金、年金、扶養手当及び児童扶養手当)の適用
日本の年金収入に関しては、日米租税条約の第17条が非常に重要です。この条約は、年金の種類によって課税権を明確に定めています。
- 企業年金などの私的年金(第17条第1項):「一方の締約国の居住者が過去の雇用に係る対価として取得する年金その他これに類する報酬に対しては、その居住地国においてのみ課税される。」
これは、米国居住者が日本の企業年金などの私的年金を受け取る場合、米国のみで課税され、日本は課税できないことを意味します。
- 厚生年金・国民年金などの公的年金(第17条第2項):「一方の締約国が支払う社会保障給付その他これに類する公的年金に対しては、その一方の締約国においてのみ課税される。」
これは、日本政府(またはその機関)が支払う厚生年金や国民年金などの公的年金は、米国居住者であっても日本においてのみ課税され、米国では非課税となることを意味します。この場合、米国ではForm 8833 (Treaty-Based Return Position Disclosure) を提出し、租税条約の適用を主張して所得から除外します。
外国税額控除(Form 1116)の可能性
もし、日米租税条約の適用にもかかわらず、日本と米国の両方で同じ所得に対して課税された場合(例えば、日本の生命保険解約返戻金に対して日本で源泉徴収され、それが還付されない場合など)、米国で外国税額控除(Form 1116, Foreign Tax Credit)を申請することで、二重課税を軽減できる可能性があります。ただし、租税条約が優先されるため、まずは条約に基づいた課税権の確認が重要です。
FBAR (FinCEN Form 114) および FATCA (Form 8938) による情報開示義務
日本の生命保険の解約返戻金や年金を受け取る口座、または年金資産そのものが、米国の情報開示義務の対象となる場合があります。特定の基準額を超える外国金融口座を保有している場合、FBAR (FinCEN Form 114, Report of Foreign Bank and Financial Accounts) やFATCA (Form 8938, Statement of Specified Foreign Financial Assets) の提出が必要となることがあります。これらの報告義務は、所得の課税とは別個のものですので、注意が必要です。
専門家へのご相談を
日米間の税務は複雑であり、個々の状況によって適用される条約や税法が異なります。特に、年金の種類や保険契約の内容、受取時期などによって課税関係が変わる可能性があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務アドバイスではありません。ご自身の状況に合わせた正確な申告のためには、必ず資格のある米国税理士または会計士にご相談ください。
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