米国で住宅や投資用不動産を購入するとき、権利証(Deed)に誰の名前をどの形態で載せるかは、単なる手続きではなく、贈与税・遺産税・相続手続き(プロベート)・取得価額のステップアップを左右する重要な税務判断です。特に「夫婦の一方が資金を全額負担して共有名義にする」「子供を名義に加えておく」といった日本では珍しくない発想が、米国では贈与税の申告義務や思わぬ課税を生むことがあります。この記事では、Joint Tenancy(合有)とTenancy in Common(共有)の違い、夫婦・親子で名義を共有する場合の贈与税、死亡時の遺産税と取得価額、そして日本側の税務との関係を2026年時点の制度で整理します。
共有名義の3つの形態
| 形態 | 持分 | 死亡時の扱い | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| Joint Tenancy with Right of Survivorship(JTWROS) | 原則均等 | 生存者に自動的に移転(プロベート不要) | 夫婦・親子で多用。一方が単独で持分を売却すると共有(TIC)に転換される州が多い |
| Tenancy in Common(TIC) | 不均等でも可(例:70/30) | 持分は遺言・法定相続で承継(プロベート必要) | 投資家同士、再婚家庭、親子で持分を分けたい場合に適する |
| Tenancy by the Entirety(TBE) | 夫婦一体 | 生存配偶者に移転 | ニューヨーク州など約半数の州で夫婦のみ利用可。一方の債権者からの差押えに強い |
このほか、カリフォルニア州やテキサス州など9つの州では夫婦共有財産(Community Property)制度があり、婚姻中に取得した財産は原則として夫婦の共有財産とされ、死亡時には全体の取得価額が時価に切り上がる「ダブル・ステップアップ」が認められます。
名義を共有すると「贈与」になる:贈与税の基本
米国の贈与税は「贈与した側」に課され、資金を出していない人を不動産の名義に加えた時点で、その持分相当額の贈与が完了したものとして扱われます(銀行口座の共有名義とは異なり、不動産は登記時点で贈与が成立します)。2026年の年間非課税枠は受贈者1人あたり19,000ドルで、これを超える贈与はForm 709の申告が必要です。米国市民・居住者であれば生涯非課税枠(2026年は1,500万ドル)の範囲内で税額はゼロになりますが、申告義務は残ります。
配偶者が米国市民でない場合の落とし穴
配偶者間の贈与は、受け取る配偶者が米国市民であれば無制限に非課税(婚姻控除)です。しかし配偶者が米国市民でない場合、婚姻控除は使えず、年間194,000ドル(2026年)の特別非課税枠しかありません。たとえば夫が全額を負担して100万ドルの自宅を夫婦のJTWROSで購入した場合、妻への50万ドルの贈与のうち194,000ドルを超える306,000ドルが課税対象の贈与となり、Form 709の申告が必要になります。夫が米国市民・居住者なら生涯非課税枠で税額は生じませんが、夫が日本居住の非居住外国人であれば、米国不動産の贈与に生涯非課税枠は適用されず、実際に贈与税(税率は18%から最高40%)が発生します。
日本居住の親が子供を名義に加える場合
日本に住む親が米国の不動産を購入し、米国在住の子供を共有名義にするケースでも同じ問題が起きます。非居住外国人による米国不動産(有形の米国内資産)の贈与は米国贈与税の対象で、年間非課税枠19,000ドルを超える部分には生涯非課税枠なしで贈与税が課されます。加えて日本側でも、贈与を受けた子供に日本の贈与税がかかる可能性があります(受贈者または贈与者が日本に住所を有する場合や、日本国籍を持ち過去10年以内に日本に住所があった場合など)。名義を安易に共有する前に、日米両方の贈与税を試算することが不可欠です。
死亡時の扱い:遺産税・プロベート・取得価額
- JTWROSの持分は生存者に自動的に移転するため、プロベートを経ずに名義変更できます。TICの持分は遺言や法定相続に従い、プロベート手続きが必要です。日本居住者が米国不動産をTICで保有していると、米国での補助的プロベート(Ancillary Probate)に時間と費用がかかります。
- 夫婦のJTWROSは、生存配偶者が米国市民であれば持分の50%のみが被相続人の遺産に含まれます(適格共有持分)。生存配偶者が米国市民でない場合はこの50%ルールが使えず、生存配偶者が自分の資金拠出を証明できない限り、不動産の全額が被相続人の遺産に含まれます(拠出割合ルール、Section 2040(a))。親子のJTWROSも同じ拠出割合ルールが適用されます。
- 遺産に含まれた部分は取得価額が死亡時の時価に切り上がる(ステップアップ)ため、資金を全額出した親が亡くなった場合は、子供の取得価額も全体が時価になります。逆に、拠出のない配偶者の持分が遺産に含まれなかった部分はステップアップしません。
- 米国市民・居住者の遺産税の基礎控除額は2026年で1,500万ドルですが、非居住外国人は原則60,000ドルにとどまります(日米相続税条約による拡大の余地あり)。米国市民でない配偶者への遺産には婚姻控除が使えず、QDOT(適格国内信託)を組む必要があります。
日本側の課税との関係
日本の税務では、資金を拠出していない配偶者や子供が共有名義の持分を取得した場合、その取得時点で贈与とされ、日本の贈与税の対象となり得ます。また、JTWROSの生存者権によって死亡時に持分が移転した場合は、遺贈により取得したものとして相続税の対象になります。米国で贈与税や遺産税を納めた場合は、日本の贈与税・相続税の計算で外国税額控除の対象になりますが、課税のタイミング(米国は登記時、日本も登記時)や評価額が一致しないことがあるため、日米で整合した記録を残してください。
よくある質問
資金は夫が全額出しますが、妻を名義に入れたい。どうすればよいですか?
妻が米国市民であれば婚姻控除により贈与税の問題はありません。妻が米国市民でない場合は、年間194,000ドルの枠内で持分を段階的に移す、あるいはForm 709を申告して生涯非課税枠を使う(夫が米国市民・居住者の場合)といった方法があります。夫が非居住外国人であれば贈与税が実際に発生するため、名義の持ち方自体を再検討したほうがよいケースもあります。
相続対策として子供を名義に加えるのは有効ですか?
プロベート回避には有効ですが、贈与税の申告、子供の債権者や離婚のリスク、子供の同意なしに売却や借換えができなくなる点、そして贈与部分について取得価額のステップアップが得られない可能性を考慮する必要があります。撤回可能信託(Revocable Trust)やLLCでの保有など、代替手段と比較してください。
TICで購入しました。相続のときはどうなりますか?
被相続人の持分は遺言または州の法定相続ルールに従って承継され、プロベートが必要です。日本居住の相続人が承継する場合は米国での手続きに加え、日本の相続税申告も必要になります。持分の評価と取得価額のステップアップを整理して、双方の申告に備えてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則、各州法および日本の税法をご確認のうえ、日米の専門家にご相談ください。
まとめ
JTWROSはプロベートを避けられる便利な形態ですが、資金を出していない人を名義に加えた時点で贈与が成立し、配偶者が米国市民でない場合や贈与者が非居住外国人の場合には贈与税の申告や納税が現実の問題になります。死亡時には拠出割合ルールによって遺産に含まれる範囲と取得価額のステップアップが決まり、日本側でも贈与税・相続税の対象になります。名義の形態は「誰が資金を出し、誰が市民で、誰がどこに住むか」を踏まえて、購入前に日米の専門家と決めることをおすすめします。
