Modern glass skyscrapers rising against a cloudy blue sky in a city center

米国REIT投資と非居住者の課税:配当源泉税とFIRPTA適用除外の条件

米国の不動産に投資したいが、物件を直接保有して賃貸管理やFIRPTAの源泉徴収に対応するのは負担が大きい。そう考える日本居住の投資家にとって、米国REIT(不動産投資信託)は有力な選択肢です。ただし、REITの分配金には通常の株式配当とは異なる源泉税のルールがあり、キャピタルゲイン分配や株式売却についてはFIRPTA(外国人不動産投資税法)の適用除外を満たしているかどうかで課税関係が大きく変わります。この記事では、米国非居住者(日本居住者)が米国REITに投資する場合の配当源泉税、日米租税条約の10%軽減税率の条件、FIRPTAの適用除外、遺産税、そして日本側の申告まで、2026年時点の制度で整理します。

米国REITの基本:利益の90%以上を分配する法人

米国REITは、課税所得の90%以上を株主に分配するなどの要件を満たすことで法人段階の課税を免れる不動産投資法人です。上場REITは株式と同じように証券取引所で売買でき、オフィス、住宅、物流施設、データセンター、住宅ローン債権(モーゲージREIT)など多様なセクターがあります。米国居住者にとってREITの分配金は原則として「適格配当」ではなく通常所得として課税されますが、Section 199Aにより適格REIT配当の20%控除が恒久的に認められています。

非居住者への分配金の源泉税:原則30%、条約で10%

米国非居住者が受け取る米国REITの通常分配金(Ordinary Dividends)は、米国内国法上30%の源泉徴収の対象です。日米租税条約では一般の配当と同様に10%への軽減が認められますが、REITの配当には追加の条件があり、以下のいずれかを満たす必要があります。

  • 受益者が個人で、REITに対する持分が10%以下であること
  • 分配金が上場されている株式のクラスに係るもので、受益者がそのクラスの5%以下を保有していること
  • REITが分散投資型(保有不動産のうち単一の持分が全体の10%を超えない)で、受益者の持分が10%以下であること

上場REITに少額投資している個人投資家であれば、通常はこれらの条件を満たし、10%の軽減税率が適用されます。軽減を受けるには、米国の証券会社にForm W-8BENを提出し、日本の居住者であることと租税条約の適用を申告しておく必要があります。日本の証券会社を通じて米国REITやREIT ETFを購入する場合は、証券会社が一括して手続きを行うため、多くの場合10%で源泉徴収されたうえで日本側の税金が計算されます。

キャピタルゲイン分配とFIRPTA:10%ルールが分かれ目

REITが保有不動産を売却して得た利益を「キャピタルゲイン分配」として株主に分配する場合、米国内国歳入法897条(h)(1)により、非居住者の株主については米国不動産権益(USRPI)の売却益として扱われ、実質的関連所得として21%の源泉徴収と米国での申告義務が生じるのが原則です。ただし、上場REITの株式クラスを分配前1年間を通じて10%以下しか保有していない株主については、この規定は適用されず、キャピタルゲイン分配も通常の配当として扱われます。この場合、源泉税率は30%、条約適用で10%です。

REIT株式の売却益

米国非居住者が米国株式を売却した場合、通常は米国で課税されません。しかしREIT株式は不動産を主な資産とする法人の株式であるため、原則としてUSRPIに該当し、売却益にFIRPTAが適用される可能性があります。ここでも重要なのが適用除外です。

  • 上場REITで、売却前5年間(または保有期間)を通じて当該クラスの株式を10%以下しか保有していない場合、その株式はUSRPIに該当せず、売却益は米国で非課税、FIRPTA源泉もありません。
  • 国内支配REIT(Domestically Controlled REIT:一定期間を通じて株式の50%超を米国人が保有)の株式は、保有割合にかかわらずUSRPIに該当しません。
  • 適格外国年金基金(Qualified Foreign Pension Fund)はFIRPTAの適用が免除されています。

一般的な個人投資家が上場REITを売買する限り、10%基準を超えることはまずないため、売却益は日本でのみ課税されるのが通常です。一方、非上場の私募REITやファンドを通じた大口投資では、持分割合によってFIRPTAの源泉徴収(15%または21%)と米国での申告が必要になることがあります。

所得の種類原則(非居住者)上場REITの10%以下保有者(条約適用)
通常分配金30%源泉10%源泉(日本で外国税額控除)
キャピタルゲイン分配USRPI売却益として21%源泉+米国申告通常配当と同じ扱い(10%源泉)
REIT株式の売却益USRPIとしてFIRPTA適用の可能性米国非課税(FIRPTAなし)
資本の払戻し(ROC)取得価額を減額、超過分は譲渡益同左

見落としがちな2つの論点:遺産税と日本側の申告

米国REIT株式は遺産税の対象になる

米国法人であるREITの株式は、米国非居住者にとって米国内資産(US-situs asset)に該当し、死亡時の米国遺産税の対象になります。非居住外国人の基礎控除は原則60,000ドルにとどまるため、REITを含む米国株式の保有額が大きい場合は、日米相続税条約による控除の拡大や保有形態の検討が必要です。

日本での申告

日本居住者が受け取る米国REITの分配金は配当所得として、売却益は譲渡所得として日本で課税されます。米国で源泉徴収された10%は、日本の確定申告で外国税額控除の対象になります(特定口座で源泉徴収されている場合も、外国税額控除を受けるには申告が必要です)。なお、REIT ETFの分配金には米国側で異なる区分の所得が混在することがあるため、証券会社の年間取引報告書や支払通知書の内訳を確認してください。

よくある質問

日本の証券会社で米国REIT ETFを買っています。米国の申告は必要ですか?

上場REIT(またはREITを組み入れたETF)を10%以下保有している個人投資家であれば、分配金は源泉徴収で米国側の課税が完結し、売却益も米国では課税されないため、通常はForm 1040-NRの提出は不要です。ただし証券会社にW-8BEN(または証券会社経由の同等の手続き)が有効に提出されていることが前提です。

30%で源泉徴収されてしまいました。取り戻せますか?

W-8BENが未提出または期限切れの場合、30%が源泉徴収されます。まず証券会社にW-8BENを提出(または更新)して以後の分配金を10%にし、既に徴収された分については、Form 1040-NRを提出して超過分の還付を請求できる場合があります。Form 1042-Sの保存が必要です。

REITの分配金に「Return of Capital」と書かれています。課税されますか?

資本の払戻し(ROC)に区分された分配金は、その時点では配当課税されず、株式の取得価額を減額します。取得価額を超えた部分は譲渡益として扱われます。日本側の計算にも影響するため、Form 1099-DIVや1042-Sの区分を記録しておいてください。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則および日米租税条約の規定をご確認のうえ、日米の税務専門家にご相談ください。

まとめ

日本居住者が上場米国REITに投資する場合、通常分配金は日米租税条約により10%の源泉税で済み、キャピタルゲイン分配も株式売却益も、10%以下の保有であればFIRPTAの適用を受けずに済みます。カギはW-8BENの提出と、10%基準(上場クラスの分配金については5%基準)を超えないことです。一方で、私募REITや大口投資、そして遺産税については別途の検討が必要です。分配金の区分と源泉税の記録を保存し、日本の確定申告で外国税額控除を確実に受けることが、税引後リターンを最大化する基本になります。

関連記事