日本居住者が米国内に保有する不動産を売却する際、売却代金の受け取り方法として必ず直面するのが「FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act、外国人不動産投資税法)」に基づく源泉徴収です。売却額の最大15%が決済時に源泉徴収されるため、資金計画に大きな影響を与えます。本記事では、FIRPTA源泉徴収の仕組み、軽減・免除の条件、そして還付手続きについて解説します。
FIRPTAとは何か
FIRPTAは、非居住外国人(Nonresident Alien)が米国不動産(USRPI: U.S. Real Property Interest)を売却した際に生じるキャピタルゲインを、確実に米国が課税できるようにするための制度です。非居住者は通常、米国外で生じた所得について米国課税を受けませんが、米国不動産の売却益は例外的に課税対象とされます。しかし、売主が非居住者であるため、売却後に本人へ課税・徴収することが難しいという実務上の問題があります。そこでFIRPTAは、買主(Buyer)に源泉徴収義務を課すという形で、売却時点で税金を確保する仕組みを採用しています。
源泉徴収の税率
2016年2月17日以降の取引については、源泉徴収率は原則として売却代金(Amount Realized)の15%です。これは「利益(キャピタルゲイン)」に対してではなく「売却代金総額」に対して課される点に注意が必要です。つまり、実際の売却益がわずかであっても、あるいは損失が出ていたとしても、決済時にはいったん売却代金の15%が源泉徴収されるのが原則です。
軽減・免除される場合
買主が個人であり、購入した物件を自身の居住用として使用する意図がある場合には、以下の軽減措置が適用されます。
| 売却代金(Amount Realized) | 買主の居住意図 | 源泉徴収率 |
|---|---|---|
| 30万ドル以下 | 居住用として使用予定 | 源泉徴収免除(0%) |
| 30万ドル超〜100万ドル以下 | 居住用として使用予定 | 10% |
| 上記以外(投資用物件、100万ドル超等) | — | 15% |
この軽減措置の適用を受けるには、買主(またはその家族)が「取得後の最初の2年間について、各12か月の期間ごとに、その物件が使用される日数の50%以上を居住用として使用する具体的な計画がある」ことを表明する必要があります。投資用の賃貸物件(Rental Property)の売却では、買主がその物件に居住する予定がないため、この軽減措置は通常適用されません。また複数の売主が共同で所有している場合、この免除・軽減の判定は売却代金の総額に対して行われ、各売主の持分ごとに按分して適用されるわけではない点にも注意が必要です。
源泉徴収額を事前に減らす方法:Form 8288-B
実際のキャピタルゲインに対する納税額が、源泉徴収される金額(売却代金の15%)よりも明らかに少ない場合(例えば、減価償却控除後の簿価との差額が小さい、あるいは損失が出ている場合)、決済前にIRSへ「Form 8288-B(Application for Withholding Certificate)」を提出することで、源泉徴収額を実際の見込み税額まで減額してもらう手続きがあります。IRSは完全な申請書の受領から通常90日以内に審査結果を出すとしているため、決済のかなり前(可能であれば決済予定日の90日以上前)に申請を開始しておく必要があります。決済までに承認が間に合わない場合、いったんエスクロー(決済代行会社)が源泉徴収相当額を留保し、承認後にその金額に基づいて調整するという実務上の対応が取られることもあります。
源泉徴収された税金を取り戻す:確定申告での還付
源泉徴収された金額は、あくまで「予定納税」的な性質のものであり、最終的な納税額を確定させるものではありません。売却が行われた翌年に、非居住者はForm 1040NRを提出し、実際のキャピタルゲイン・ロスを計算します。源泉徴収額が実際の税額を上回っていた場合、その差額は確定申告を通じて還付されます。逆に源泉徴収額が不足していた場合は、追加の納税が必要です。買主側が源泉徴収した金額は、決済後20日以内にForm 8288・Form 8288-Aを用いてIRSへ納付され、売主にはForm 8288-Aの控えが送付されるため、確定申告の際にはこの控えを保管しておく必要があります。
よくある質問
Q. 売却で損失が出た場合でも源泉徴収されますか?
A. はい、原則として源泉徴収は「売却代金」に対して行われるため、損失が出ていても決済時にはいったん徴収されます。損失であることが明らかな場合は、Form 8288-Bによる事前の減額申請を活用することで、決済時の資金負担を軽減できます。
Q. 日本の居住者であることは、源泉徴収額に影響しますか?
A. FIRPTAの源泉徴収率自体は国籍・居住国にかかわらず一律に適用されるため、日米租税条約によってこの源泉徴収率が直接軽減されるわけではありません。ただし、最終的な納税額は確定申告を通じて日米間の税額調整(外国税額控除等)を反映して計算されるため、二重課税は基本的に排除されます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の売却にあたっては、決済スケジュールを踏まえた早めの専門家への相談をおすすめします。
まとめ
FIRPTAによる源泉徴収は、実際の納税額とは無関係に、売却代金を基準に決済時点で機械的に行われる点が最大の特徴です。特に投資用不動産の売却では軽減措置が適用されないため、資金計画上のインパクトが大きくなりがちです。売却損が見込まれる場合や源泉徴収額が過大になりそうな場合は、Form 8288-Bによる事前減額申請を活用し、決済までのスケジュールに余裕を持って準備を進めることが重要です。
