駐在や留学、就労を終えて日本に帰国したあと、米国に残した自宅をどう処分するかは大きな悩みどころです。帰国前に売り切れなかった、あるいはしばらく賃貸に出してから売ろうと考えている方も多いでしょう。ここで問題になるのが、「非居住者になっても自宅売却益の250,000ドル非課税枠(Section 121)は使えるのか」「FIRPTAで15%源泉徴収されるのか」「日本でも課税されるのか」という3つの論点です。この記事では、帰国後に米国の元自宅を売却する場合の米国側・日本側の課税と、売却のタイミングによる違いを2026年時点のルールで解説します。
Section 121の非課税枠は非居住者でも使える
主たる住居の売却益について、単身で最大250,000ドル、夫婦合算申告で最大500,000ドルを非課税にできるSection 121の特例は、米国居住者に限定された制度ではありません。売却前5年間のうち通算2年以上、その住宅を所有し、かつ主たる住居として使用していれば、帰国して米国非居住者になった後でも、Form 1040-NRで特例を適用できます。ポイントは次のとおりです。
- 「2年」は連続している必要はなく、売却日から遡って5年以内の通算で判定します。帰国後に賃貸に出しても、転居から3年以内に売却すれば使用要件を満たせます。
- 転居後の賃貸期間は「非適格使用」には該当しません(2009年以降のルールでは、主たる住居として最後に使用した日より後の期間は非適格使用から除外されます)。ただし賃貸中に計上した減価償却分は非課税枠の対象外で、売却時にUnrecaptured Section 1250 Gainとして最高25%で課税されます。
- 帰国後は夫婦とも非居住者になるため、原則として夫婦合算申告(500,000ドル枠)はできません。共有名義であれば、各配偶者が自分の持分について所有・使用要件を満たすことで、それぞれ250,000ドルまで非課税にできます。
- 転勤による帰国などで2年要件を満たせない場合でも、勤務地の変更(新しい勤務地が旧居から50マイル以上遠い)を理由とする売却なら、居住期間に応じた按分での部分的な非課税枠が認められることがあります。
FIRPTAの源泉徴収:売主が非居住者なら原則15%
売却時点で売主が米国非居住者(外国人)であれば、買主は売却価額(ローン残債の返済分を含む総額)の15%をIRSに納付する義務があります。買主が自ら居住する目的で購入し、売却価額が300,000ドル以下であれば源泉徴収は不要、300,000ドル超1,000,000ドル以下であれば10%に軽減されます。この源泉徴収は税額そのものではなく前払いなので、翌年にForm 1040-NRを提出し、Section 121の非課税枠や取得価額を反映した実際の税額との差額を還付請求します。
手取りを早く確保したい場合は、クロージング前にForm 8288-B(源泉徴収証明書の申請)を提出し、実際の税額(非課税枠を使えばゼロになることも多い)に基づく源泉徴収の減額をIRSに申請できます。審査には通常90日程度かかるため、売買契約の段階で準備を始め、買主側のエスクローで資金を留保してもらうのが一般的です。なお、州によっては別途の源泉徴収や見積納税があります。ニューヨーク州では非居住者の不動産売却時にForm IT-2663で見積税を納付し、カリフォルニア州では売却価額の3分の1%相当の源泉徴収(Form 593)が原則として行われます。
帰国前に売れば源泉徴収はない
FIRPTAは売却時点の売主のステータスで判定されます。米国居住者(グリーンカード保有者、または実質的滞在テストを満たす人)のうちに売却すれば、売主は非外国人証明書(Non-Foreign Affidavit)を提出でき、源泉徴収は発生しません。ただし出国年は居住者期間と非居住者期間に分かれるため、クロージング日がどちらの期間に属するかを確認しておく必要があります。
日本側の課税:帰国後の売却は日本でも申告が必要
日本に帰国して居住者になった後は、全世界所得が日本の課税対象になります。米国の元自宅を売却した場合、日本では譲渡所得(分離課税)として申告が必要で、所有期間が売却年の1月1日時点で5年超なら長期譲渡所得として20.315%、5年以下なら短期譲渡所得として39.63%の税率です。取得費と売却価額は、それぞれ取得日・売却日の為替レートで円換算するため、購入時より円安が進んでいれば、ドルベースでは利益が小さくても円ベースでは大きな譲渡益になることがあります。
- 3,000万円特別控除:居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除は、国内の物件に限定されておらず、国外の元自宅にも適用できることを国税庁が質疑応答事例で明らかにしています。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが条件です。
- 10年超所有の軽減税率や買換え特例は国内物件に限られるため、米国の自宅には使えません。
- 米国で納めた税金(Form 1040-NRで確定した税額)は、日本の確定申告で外国税額控除の対象になります。米国側の源泉徴収額ではなく、確定した税額で計算する点に注意してください。
- 帰国前(日本の非居住者である間)に売却した場合、国外にある不動産の譲渡益は日本では課税されません。
| 売却タイミング | 米国側 | 日本側 |
|---|---|---|
| 帰国前(米国居住者のうちに売却) | Section 121適用可、FIRPTA源泉なし | 日本の非居住者のため課税なし |
| 帰国後、転居から3年以内 | Section 121適用可(Form 1040-NR)、FIRPTA源泉15%(8288-Bで減額可) | 譲渡所得として課税、3,000万円特別控除の適用余地あり、外国税額控除 |
| 帰国後、転居から3年超 | Section 121は原則使えない、賃貸中の償却はリキャプチャー | 譲渡所得として課税、3,000万円特別控除は不可、外国税額控除 |
よくある質問
帰国後に賃貸に出しています。いつまでに売れば非課税枠を使えますか?
主たる住居として最後に住んだ日から3年以内に売却すれば、売却前5年間のうち2年以上の使用要件を満たせます。日本側の3,000万円特別控除も「住まなくなった年から3年目の年末まで」が期限なので、両方の期限を並べて売却計画を立ててください。
FIRPTAで15%引かれました。いつ戻ってきますか?
買主(またはエスクロー会社)がForm 8288・8288-Aで納付した後、翌年にForm 1040-NRを提出して還付を請求します。Form 8288-AのCopy Bが還付請求の添付書類になるため、必ず受け取って保管してください。還付までにはIRSの処理期間として数か月から半年以上かかることがあります。
売却益が250,000ドルを超えそうです。対策はありますか?
取得価額に加算できる改修費(キッチン改装、屋根の交換など資本的支出)や売却費用(仲介手数料、クロージング費用)を漏れなく集計すること、共有名義であれば各配偶者の250,000ドル枠を使うことが基本です。日本側では為替換算後の譲渡益が異なるため、日米で別々に計算したうえで専門家に確認してください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則および日本の税法をご確認のうえ、日米の税務専門家にご相談ください。
まとめ
帰国後に米国の元自宅を売却しても、転居から3年以内であればSection 121の250,000ドル非課税枠はForm 1040-NRで使えます。ただし売主が非居住者になった後の売却にはFIRPTAの15%源泉徴収が伴うため、Form 8288-Bによる減額申請か翌年の還付請求が必要です。日本に帰国した後は日本でも譲渡所得の申告が必要になりますが、3,000万円特別控除は国外の元自宅にも適用でき、米国で納めた税は外国税額控除の対象です。米国側の「転居から3年」と日本側の「住まなくなった年から3年目の年末」という2つの期限を意識して、売却時期を決めることが最も重要です。
