米国への出張が多いビジネスパーソン、米国に別荘を持つ方、あるいは孫の世話のために長期滞在する親世代。米国に長く滞在すると、ビザの種類にかかわらず「実質的滞在テスト(Substantial Presence Test)」によって米国の税務上の居住者と判定され、日本の給与や不動産収入まで含めた全世界所得を米国で申告する義務が生じる可能性があります。この居住者判定を回避する手段の一つが、Form 8840で申告する「Closer Connection Exception(より密接な関係の例外)」です。この記事では、実質的滞在テストの計算方法、Closer Connection Exceptionの3つの要件、使えないケース、提出期限と提出しなかった場合の不利益、そして183日以上滞在した場合の代替手段(租税条約のタイブレーカー)を2026年時点のルールで解説します。
実質的滞在テスト:3年間の加重日数で183日
グリーンカードを持たない外国人でも、次の両方を満たすとその年の米国税務上の居住者になります。
- 当年に31日以上、米国に滞在していること
- 「当年の滞在日数」+「前年の滞在日数の3分の1」+「前々年の滞在日数の6分の1」の合計が183日以上であること
たとえば毎年120日ずつ滞在すると、120+40+20=180日で基準に達しませんが、毎年122日滞在すると約183日となり居住者に該当します。このため「年122日」が実務上の目安とされます。日数は「その日のうち一部でも米国に物理的にいた日」を1日として数え、到着日・出発日も含みます。ただし、カナダ・メキシコからの通勤者、24時間未満の乗り継ぎ、F・J・M・Qビザの学生・教授・研修生など「免除個人(Exempt Individual)」として過ごした日、米国滞在中に発生した病気で出国できなかった日などは除外できます(免除個人や病気による除外はForm 8843で申告します)。
Closer Connection Exceptionの3つの要件
実質的滞在テストを満たしてしまった年でも、以下の3つをすべて満たせば、その年は非居住者として扱われます(内国歳入法7701条(b)(3)(B))。
- 当年の米国滞在日数が183日未満であること(加重日数ではなく、当年の実日数)
- 当年を通じて外国(日本)に「タックスホーム」(主たる事業所や勤務地、それがなければ通常の居住地)を維持していること
- 米国よりも日本との関係がより密接であること
「より密接な関係」の判定要素
IRSは、恒久的な住居の所在地、家族の居住地、自動車や家具などの個人財産の所在地、所属する社会的・文化的・宗教的団体、事業活動の場所、運転免許証の発行国、選挙権を行使する国、そして各種書類(Form W-8BENかW-9か、ホテルの宿泊登録など)で申告している居住国といった事実を総合的に見ます。日本に自宅と家族があり、日本の会社に勤務し、日本で確定申告や住民税を納めているといった事実関係が揃っていれば、通常はこの要件を満たします。
2つの外国に関係がある場合
年の途中でタックスホームを日本から第三国に移したような場合でも、それぞれの期間について当該国により密接な関係があり、いずれの国でも居住者として課税されているなどの追加要件を満たせば、例外の適用が認められる規定があります。
この例外が使えないケース
- 当年の滞在日数が183日以上の場合:この例外は使えません。後述の租税条約による判定(タイブレーカー)を検討します。
- 当年中にグリーンカード(永住権)を申請した、または申請に向けた積極的な手続き(雇用主による移民請願Form I-140、家族による請願Form I-130、Form I-485の提出など)を行った場合:永住者となる意思があるとみなされ、例外は使えません。
- Form 8840を期限内に提出しなかった場合:原則として例外を主張できなくなります。ただし、要件を知るために合理的な行動をとり、遵守のために重要な措置を講じたことを明白かつ説得力のある証拠で示せる場合は救済の余地があります。
Form 8840の提出方法と期限
Form 1040-NRの提出義務がある場合はForm 1040-NRに添付し、提出義務がない場合はForm 8840単独でIRS(テキサス州オースティン)に郵送します。期限はForm 1040-NRの提出期限と同じで、源泉徴収対象の給与所得がない人は翌年6月15日、ある人は4月15日です。夫婦それぞれが要件を満たす必要があり、各自が別々にForm 8840を提出します。滞在日数の記録(パスポートの出入国記録、航空券、I-94の履歴)は毎年保存しておいてください。
183日以上滞在した場合:租税条約のタイブレーカー
当年の滞在が183日以上になると、Closer Connection Exceptionは使えませんが、日本でも居住者として課税されている場合には、日米租税条約第4条の双方居住者振分けルール(恒久的住居、重要な利害関係の中心、常用の住居、国籍の順で判定)により、条約上は日本の居住者と主張できることがあります。この場合はForm 1040-NRにForm 8833(条約に基づく申告開示)を添付して申告します。ただし、条約上の非居住者として扱われても、FBAR(外国口座報告)の提出義務は残る点や、州の居住者判定は連邦とは別に行われる点(ニューヨーク州では年183日超の滞在と恒久的な住居の保有で法定居住者になります)に注意が必要です。
よくある質問
ESTA(ビザ免除)で年に数回渡米しています。Form 8840は必要ですか?
3年加重日数が183日以上になり、かつ当年の実日数が183日未満であれば、非居住者として扱われるためにForm 8840の提出が必要です。加重日数が183日未満であれば、実質的滞在テスト自体を満たさないので提出は不要ですが、日数の記録は残しておきましょう。
米国に別荘を所有していますが、例外は使えますか?
別荘の所有だけで例外が否定されるわけではありません。日本に主たる住居と家族、仕事があり、生活の中心が日本にあることを示せれば、要件を満たす可能性があります。ただし別荘の賃貸収入や売却益は、居住者判定とは別に米国で課税されます。
Form 8840を出し忘れた年があります。どうすればよいですか?
速やかに提出し、遅れた理由と、要件を知るために合理的な行動をとっていたことを説明する書面を添付することが考えられます。IRSに認められなければその年は居住者として全世界所得の申告が必要になる可能性があるため、専門家に相談してください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則および日米租税条約をご確認のうえ、米国税務の専門家にご相談ください。
まとめ
米国に年122日以上滞在するパターンが続くと、実質的滞在テストによって税務上の居住者になり得ます。当年の実日数が183日未満で、日本にタックスホームがあり、日本との関係がより密接であれば、Form 8840を期限内に提出することで非居住者としての扱いを維持できます。グリーンカード申請中の人は使えず、提出遅れは原則として救済されません。183日以上滞在した年は租税条約のタイブレーカーとForm 8833が代替手段になりますが、FBARや州税の判定は別に残ります。滞在日数の管理と期限内の提出が、思わぬ全世界所得課税を避ける最も確実な方法です。
関連記事
- 「183日ルール」の真実:アメリカの居住者・非居住者判定(Substantial Presence Test)を徹底解説
- 米国駐在員・留学生のための税務居住者判定と1040・1040-NRの選び方:完全ガイド
- J-1・F-1ビザ保持者の確定申告ガイド:「5年/2年ルール」と身分上の疑問を徹底解説
- ニューヨーク州・カリフォルニア州の厳しい州税:日本帰国後も課税される居住者判定リスク徹底解説
TAX PREPARER 乗り換えキャンペーン
アメリカの確定申告(タックスリターン)、今年は昨年の 50% OFF で。
他の Tax Preparer から乗り換えるだけ。昨年の Invoice を送っていただければ、申告報酬が昨年の 50% OFF(最大 $500・初年度のみ)。IRS 公認の米国税理士(EA)が日本語で対応します。
乗り換えキャンペーンを見る →