Pythonで日米の税率差を分析し、外国税額控除(Foreign Tax Credit)の最適額をシミュレーション
はじめに
グローバル化が進む現代において、日本とアメリカ合衆国の双方で所得を得る個人や法人は少なくありません。このような国際的な税務においては、二重課税の問題が生じやすく、その解決策として「外国税額控除(Foreign Tax Credit, FTC)」が重要な役割を果たします。しかし、日米それぞれの税制や税率の差を理解し、FTCを最適に活用することは複雑で、専門的な知識が求められます。本記事では、Pythonを活用して日米の税率差を分析し、外国税額控除の最適な適用額をシミュレーションする方法を、税理士の視点から網羅的かつ詳細に解説します。Pythonのプログラミングを通じて、複雑な税務計算を可視化し、より有利な税務戦略の立案を目指しましょう。
基礎知識:日米の税制と外国税額控除
アメリカの税制の概要
アメリカでは、連邦所得税が課税され、州所得税や地方税が州や地方自治体によって別途課税される場合があります。連邦所得税は累進課税方式を採用しており、所得が高くなるほど税率も高くなります。また、アメリカの税制は、市民権・永住権に基づく居住者に対して全世界所得課税を採用している点が特徴です。つまり、アメリカの税法上の居住者は、たとえ日本で得た所得であっても、原則としてアメリカで課税対象となります。
日本の税制の概要
日本においても、個人の所得に対して所得税(および住民税・事業税)が課税されます。日本の所得税も累進課税方式ですが、税率構造はアメリカとは異なります。日本は、居住者に対して原則として全世界所得課税を採用しています。非永住者については、日本国内で得た所得および日本国外から送金された所得のみが課税対象となる場合がありますが、多くのケースでは居住者と同様の扱いとなります。
外国税額控除(Foreign Tax Credit, FTC)とは
外国税額控除(FTC)は、外国で支払った所得税額を、自国の所得税額から控除できる制度です。これにより、同一の所得に対して二重に課税されることを防ぎます。アメリカと日本の両国とも、FTCの制度を設けています。ただし、控除できる金額には上限があり、通常は「外国で支払った税額」と「その外国源泉所得に対して自国で計算される税額」のいずれか低い方となります。この上限計算が、税務上の複雑さの一因となります。
FTCの控除上限額の計算式(概念):
控除上限額 = (外国源泉所得 / 全所得) × 自国の所得税額
この計算式において、「外国源泉所得」とは、日本で得た所得を指し、「全所得」とは、日米双方で得た所得の合計額を指します。この計算式からわかるように、外国源泉所得の割合や、日米双方の税率がFTCの控除額に大きく影響します。
詳細解説:Pythonによる日米税率差分析とFTCシミュレーション
Python環境の準備とライブラリ
Pythonによる税務分析を行うためには、まず開発環境を整える必要があります。Pythonのインストールに加え、数値計算やデータ操作に不可欠なNumPyやPandasといったライブラリ、そしてグラフ描画のためのMatplotlibやSeabornなどを導入します。これらのライブラリは、複雑な税額計算や結果の可視化を容易にします。
必要なライブラリのインストール例:
pip install numpy pandas matplotlib seaborn
日米の所得税率データの取得と整理
分析の第一歩は、日米それぞれの所得税率データを取得し、整理することです。所得税率は所得階層によって変動する累進課税であるため、正確な税率表(Tax Brackets)が必要です。これらのデータは、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)や国税庁(日本)の公式ウェブサイト、または信頼できる税務情報サイトから入手できます。取得したデータはPandasのDataFrame形式に変換し、Pythonで扱いやすいように整形します。
Pythonコード例(架空の税率データ):
import pandas as pd
# アメリカの連邦所得税率(架空)
us_tax_brackets = [
{'rate': 0.10, 'income_limit': 10000},
{'rate': 0.12, 'income_limit': 40000},
{'rate': 0.22, 'income_limit': 85000},
{'rate': 0.24, 'income_limit': 160000},
{'rate': 0.32, 'income_limit': 200000},
{'rate': 0.35, 'income_limit': 500000},
{'rate': 0.37, 'income_limit': float('inf')}
]
us_tax_df = pd.DataFrame(us_tax_brackets)
# 日本の所得税率(架空)
japan_tax_brackets = [
{'rate': 0.05, 'income_limit': 1950000},
{'rate': 0.10, 'income_limit': 3300000},
{'rate': 0.20, 'income_limit': 6950000},
{'rate': 0.23, 'income_limit': 9000000},
{'rate': 0.33, 'income_limit': 18000000},
{'rate': 0.40, 'income_limit': float('inf')}
]
japan_tax_df = pd.DataFrame(japan_tax_brackets)
print("US Tax Brackets:")
print(us_tax_df)
print("\nJapan Tax Brackets:")
print(japan_tax_df)
所得計算と税額の算出
次に、日米それぞれの所得を合算し、各国の税法に基づいて所得税額を計算します。アメリカでは全世界所得が課税対象となるため、日本での所得も合算してアメリカでの税額を計算します。日本でも同様に、アメリカでの所得(一定の条件下で)も合算対象となる可能性があります。ここでは、単純化のため、アメリカでの課税所得と日本での課税所得をそれぞれ仮定し、各国の税率表に基づいて限界税率(Marginal Tax Rate)と実効税率(Effective Tax Rate)を算出します。
Pythonコード例:各国の税額計算関数
def calculate_tax(income, tax_brackets_df):
tax_amount = 0
previous_limit = 0
for index, row in tax_brackets_df.iterrows():
if income > previous_limit:
taxable_in_bracket = min(income, row['income_limit']) - previous_limit
tax_amount += taxable_in_bracket * row['rate']
previous_limit = row['income_limit']
else:
break
return tax_amount
# 例:アメリカでの課税所得 $100,000 の場合
us_income = 100000
us_tax = calculate_tax(us_income, us_tax_df)
print(f"US Tax for ${us_income}: ${us_tax:.2f}")
# 例:日本での課税所得 ¥8,000,000 の場合
japan_income_jpy = 8000000
# 為替レートを仮定 (例: 1 USD = 150 JPY)
exchange_rate = 150
japan_income_usd = japan_income_jpy / exchange_rate
# 日本の税率適用(円ベースの所得で計算し、後でドルに換算、またはドルベースで計算し円に換算。ここでは円ベースで計算)
japan_tax_jpy = calculate_tax(japan_income_jpy, japan_tax_df)
print(f"Japan Tax for ¥{japan_income_jpy}: ¥{japan_tax_jpy:.2f}")
# アメリカでの課税所得に日本所得を含める場合(概念)
total_worldwide_income_usd = us_income + japan_income_usd # 日本所得をドル換算して合算
us_tax_on_worldwide = calculate_tax(total_worldwide_income_usd, us_tax_df)
print(f"US Tax on worldwide income (${total_worldwide_income_usd:.2f}): ${us_tax_on_worldwide:.2f}")
※上記コードは簡略化されたものであり、実際には控除、各種所得区分、申告区分(Single, Married Filing Jointlyなど)による税率の違い、州税などを考慮する必要があります。
外国税額控除(FTC)のシミュレーション
Pythonを用いてFTCのシミュレーションを行います。ここでは、アメリカの居住者が日本で所得を得て、日本で所得税を支払ったケースを想定します。アメリカでの税額計算において、FTCの控除上限額を計算し、実際に控除できる税額を決定します。
FTCシミュレーションのロジック:
- 日米双方の所得額を把握する。
- アメリカの税法に基づき、全世界所得に対するアメリカでの税額を計算する。
- 日本で支払った所得税額を把握する(外国税額)。
- アメリカの税法に基づき、FTCの控除上限額を計算する。
FTC Limit = (日本源泉所得 / 全世界所得) × アメリカでの所得税額 - 実際に控除できるFTC額は、
min(日本で支払った所得税額, FTC Limit)となる。 - 最終的なアメリカでの納税額は、
アメリカでの所得税額 - 控除可能FTC額となる。
Pythonコード例:FTCシミュレーション
# --- 仮定条件 ---
us_resident_income_usd = 150000 # アメリカでの所得(ドル)
japan_resident_income_usd = 80000 # 日本での所得(ドル換算)
# 日本で支払った所得税額(ドル換算、概算)
japan_tax_paid_usd = 20000 # 仮に日本で支払った税額が $20,000 とする
# 為替レート
exchange_rate = 150 # 1 USD = 150 JPY
# --- 計算 ---
# 1. 全世界所得
total_worldwide_income_usd = us_resident_income_usd + japan_resident_income_usd
# 2. アメリカでの税額計算(簡略化のため、単一税率 25% を仮定)
# 実際には calculate_tax 関数と us_tax_df を使用すべき
us_tax_liability_before_ftc = total_worldwide_income_usd * 0.25
# 3. 日本で支払った所得税額(ドル) - 上記で仮定済み
foreign_tax_paid_usd = japan_tax_paid_usd
# 4. FTC 控除上限額の計算
# (日本源泉所得 / 全世界所得) * アメリカでの所得税額
ftc_limit_usd = (japan_resident_income_usd / total_worldwide_income_usd) * us_tax_liability_before_ftc
# 5. 控除可能FTC額
allowable_ftc_usd = min(foreign_tax_paid_usd, ftc_limit_usd)
# 6. 最終的なアメリカでの納税額
final_us_tax_due_usd = us_tax_liability_before_ftc - allowable_ftc_usd
# --- 結果表示 ---
print(f"--- FTC Simulation Results ---")
print(f"US Income (USD): {us_resident_income_usd:.2f}")
print(f"Japan Income (USD): {japan_resident_income_usd:.2f}")
print(f"Total Worldwide Income (USD): {total_worldwide_income_usd:.2f}")
print(f"US Tax Liability Before FTC (USD): {us_tax_liability_before_ftc:.2f}")
print(f"Foreign Tax Paid in Japan (USD): {foreign_tax_paid_usd:.2f}")
print(f"FTC Limit (USD): {ftc_limit_usd:.2f}")
print(f"Allowable FTC (USD): {allowable_ftc_usd:.2f}")
print(f"Final US Tax Due (USD): {final_us_tax_due_usd:.2f}")
# 日本での納税額との比較
# 日本での税額計算も別途必要だが、ここでは単純比較
us_tax_paid_after_ftc_jpy = final_us_tax_due_usd * exchange_rate
print(f"\nTotal Tax Burden (USD Equivalent):")
print(f" US Tax Paid (after FTC): {final_us_tax_due_usd:.2f}")
print(f" Japan Tax Paid: {japan_tax_paid_usd:.2f}")
print(f" Total Burden (USD Equivalent): {final_us_tax_due_usd + japan_tax_paid_usd:.2f}")
このシミュレーションにより、日本で支払った税額がFTCの控除上限額を超える場合、その超過分は控除できず、結果として二重課税が発生してしまう可能性があることがわかります。逆に、日本での税額が控除上限額を下回る場合は、その全額が控除されます。
税率差分析と最適化戦略
Pythonスクリプトを調整し、様々な所得水準、所得配分(日米どちらの所得が多いか)、為替レートでシミュレーションを実行することで、日米の税率差がFTCに与える影響を多角的に分析できます。例えば、日本での税率がアメリカよりも著しく高い場合、日本で支払った税額がFTCの控除上限額を超える可能性が高まります。この場合、アメリカでの納税額は減りますが、日本で支払った税額の全額を回収できないため、全体的な税負担は高くなる可能性があります。
最適化戦略としては、以下の点が考えられます。
- 所得のタイミング調整: 可能であれば、税率が低い国での所得を増やす、あるいは税率が高い国での所得を減らすタイミングを検討する。
- 法人設立の検討: 個人所得としてではなく、法人を通じて所得を得ることで、税務上のメリットが得られる場合がある(ただし、移転価格税制などの国際税務ルールに注意が必要)。
- 各種控除・還付の最大化: アメリカ、日本双方で利用可能な控除や還付制度を最大限に活用し、課税所得自体を圧縮する。
- FTCの繰越・繰戻: アメリカでは、利用できなかったFTCを将来に繰り越したり、過去に繰り戻したりできる制度があります。Pythonシミュレーションで、これらの制度を活用した場合の納税額の変化も分析できます。
Pythonによるシミュレーションは、これらの戦略の効果を定量的に評価するための強力なツールとなります。
具体的なケーススタディ・計算例
ここでは、より具体的なシナリオを設定し、Pythonを用いた計算例を示します。
シナリオ設定
ケース1: アメリカ居住者が日本で高収入を得ている場合
- 居住者: アメリカ市民、IRS上の居住者
- アメリカでの所得(給与): $150,000
- 日本での所得(業務委託): ¥12,000,000 (約 $80,000)
- 日本で支払った所得税・住民税: ¥2,000,000 (約 $13,333)
- 為替レート: 1 USD = 150 JPY
- アメリカの連邦所得税率(簡略化): 25%
Pythonによる計算実行
# --- ケース1: アメリカ居住者、日本での収入が多い ---
us_income_case1 = 150000
japan_income_jpy_case1 = 12000000
japan_tax_paid_jpy_case1 = 2000000
exchange_rate = 150
japan_income_usd_case1 = japan_income_jpy_case1 / exchange_rate
japan_tax_paid_usd_case1 = japan_tax_paid_jpy_case1 / exchange_rate
total_worldwide_income_usd_case1 = us_income_case1 + japan_income_usd_case1
# アメリカでの税額(仮定税率25%)
us_tax_liability_before_ftc_case1 = total_worldwide_income_usd_case1 * 0.25
# FTC 控除上限額
ftc_limit_usd_case1 = (japan_income_usd_case1 / total_worldwide_income_usd_case1) * us_tax_liability_before_ftc_case1
# 控除可能FTC額
allowable_ftc_usd_case1 = min(japan_tax_paid_usd_case1, ftc_limit_usd_case1)
# 最終的なアメリカでの納税額
final_us_tax_due_usd_case1 = us_tax_liability_before_ftc_case1 - allowable_ftc_usd_case1
print(f"\n--- Case 1: US Resident, High Japan Income ---")
print(f"US Income: ${us_income_case1:.2f}")
print(f"Japan Income (USD): ${japan_income_usd_case1:.2f}")
print(f"Total Worldwide Income (USD): ${total_worldwide_income_usd_case1:.2f}")
print(f"US Tax Liability Before FTC (USD): ${us_tax_liability_before_ftc_case1:.2f}")
print(f"Japan Tax Paid (USD): ${japan_tax_paid_usd_case1:.2f}")
print(f"FTC Limit (USD): ${ftc_limit_usd_case1:.2f}")
print(f"Allowable FTC (USD): ${allowable_ftc_usd_case1:.2f}")
print(f"Final US Tax Due (USD): ${final_us_tax_due_usd_case1:.2f}")
# 全体負担額の確認
total_tax_burden_usd_case1 = final_us_tax_due_usd_case1 + japan_tax_paid_usd_case1
print(f"Total Tax Burden (USD Equivalent): ${total_tax_burden_usd_case1:.2f}")
分析結果と考察
このケースでは、日本での所得に対する税率(約16.67% = ¥2,000,000 / ¥12,000,000)が、アメリカでの全体所得に対する税率(25%)よりも低いことがわかります。FTCの控除上限額は、日本での所得が全体に占める割合(約35%)に基づいて計算されます。
FTC Limit = ($80,000 / $230,000) * ($230,000 * 0.25) = $80,000 * 0.25 = $20,000
日本で実際に支払った税額($13,333)は、控除上限額($20,000)を下回っているため、全額がFTCとして控除されます。
Allowable FTC = min($13,333, $20,000) = $13,333
最終的なアメリカでの納税額は、$57,500 – $13,333 = $44,167 となります。この結果から、日本で支払った税金はアメリカでの納税額から全額控除され、二重課税は回避されていることが確認できます。しかし、日本での所得に対する税率がアメリカの税率よりも低い場合、アメリカでの税負担は軽減されません。
ケーススタディ2: 日本での税率がアメリカより高い場合
シナリオ設定:
- アメリカでの所得: $200,000
- 日本での所得: $50,000 (約 ¥7,500,000)
- 日本で支払った所得税・住民税: ¥1,500,000 (約 $10,000)
- 為替レート: 1 USD = 150 JPY
- アメリカの連邦所得税率(簡略化): 25%
Pythonによる計算実行(上記コードの変数を変更):
# --- ケース2: アメリカでの収入が多い、日本での税率が高い ---
us_income_case2 = 200000
japan_income_usd_case2 = 50000
japan_tax_paid_jpy_case2 = 1500000
exchange_rate = 150
japan_tax_paid_usd_case2 = japan_tax_paid_jpy_case2 / exchange_rate
total_worldwide_income_usd_case2 = us_income_case2 + japan_income_usd_case2
us_tax_liability_before_ftc_case2 = total_worldwide_income_usd_case2 * 0.25
ftc_limit_usd_case2 = (japan_income_usd_case2 / total_worldwide_income_usd_case2) * us_tax_liability_before_ftc_case2
allowable_ftc_usd_case2 = min(japan_tax_paid_usd_case2, ftc_limit_usd_case2)
final_us_tax_due_usd_case2 = us_tax_liability_before_ftc_case2 - allowable_ftc_usd_case2
print(f"\n--- Case 2: US Resident, High US Income, High Japan Tax Rate ---")
print(f"US Income: ${us_income_case2:.2f}")
print(f"Japan Income (USD): ${japan_income_usd_case2:.2f}")
print(f"Total Worldwide Income (USD): ${total_worldwide_income_usd_case2:.2f}")
print(f"US Tax Liability Before FTC (USD): ${us_tax_liability_before_ftc_case2:.2f}")
print(f"Japan Tax Paid (USD): ${japan_tax_paid_usd_case2:.2f}")
print(f"FTC Limit (USD): ${ftc_limit_usd_case2:.2f}")
print(f"Allowable FTC (USD): ${allowable_ftc_usd_case2:.2f}")
print(f"Final US Tax Due (USD): ${final_us_tax_due_usd_case2:.2f}")
total_tax_burden_usd_case2 = final_us_tax_due_usd_case2 + japan_tax_paid_usd_case2
print(f"Total Tax Burden (USD Equivalent): ${total_tax_burden_usd_case2:.2f}")
分析結果と考察
このケースでは、日本での実効税率(約20% = ¥1,500,000 / ¥7,500,000)が、アメリカでの全体所得に対する税率(25%)よりも高い状況を想定しています。FTCの控除上限額は、
FTC Limit = ($50,000 / $250,000) * ($250,000 * 0.25) = $50,000 * 0.25 = $12,500
となります。日本で実際に支払った税額($10,000)は、控除上限額($12,500)を下回っているため、全額がFTCとして控除されます。
Allowable FTC = min($10,000, $12,500) = $10,000
最終的なアメリカでの納税額は、$62,500 – $10,000 = $52,500 となります。このケースでは、日本で支払った税金はアメリカでの納税額から全額控除され、二重課税は回避されています。しかし、日本での所得に対する税率がアメリカよりも高い場合、FTCの控除上限額が日本での納税額よりも大きくなるため、アメリカでの税負担は軽減され、結果として日本で支払った税額の一部が「無駄」になる(全額控除できない)可能性があります。
重要な注意点: 上記の計算は、アメリカの連邦所得税のみを考慮した簡略化されたものです。実際には、州税、日本の住民税、事業税、および両国で適用される様々な控除や税額控除(Tax Credits)を考慮に入れる必要があります。また、為替レートの変動も結果に影響を与えます。
PythonによるFTC分析のメリットとデメリット
メリット
- 可視化と理解の促進: 複雑な税額計算やFTCの仕組みをPythonコードとグラフで可視化することで、直感的な理解を深めることができます。
- 効率的なシミュレーション: 様々なシナリオ(所得水準、所得配分、税率変更など)に基づいた多数の計算を迅速かつ正確に実行できます。
- 最適化の発見: 税率差やFTCの適用上限を分析することで、税負担を軽減するための戦略的な意思決定を支援します。
- 再現性と自動化: 一度作成したコードは再現性が高く、毎年の税務申告や将来の計画立案において、計算プロセスを自動化できます。
- データ駆動型アプローチ: 勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータと計算に基づいた意思決定が可能になります。
デメリット
- プログラミングスキルが必要: Pythonの基本的な知識と、税務計算ロジックをコードに落とし込む能力が求められます。
- 税法の複雑さ: 両国の税法は非常に複雑であり、すべての例外規定や最新の改正をPythonコードに正確に反映させることは困難な場合があります。特に、アメリカの税法は頻繁に改正されます。
- データの正確性: 使用する税率データ、所得データ、為替レートなどの正確性が、シミュレーション結果の信頼性を左右します。
- 専門家との連携の必要性: Pythonによる分析はあくまでツールであり、最終的な税務判断や申告は、資格を持つ税理士や税務専門家と相談しながら行う必要があります。特に、国際税務においては専門家の助言が不可欠です。
- 初期設定の手間: 環境構築やライブラリのインストール、税率データの収集・整形など、初期設定に一定の時間を要します。
よくある間違いと注意点
- 簡略化しすぎた税率: 実際の税務では、各種控除、税額控除(Tax Credits)、申告区分(Single, Marriedなど)によって税額が大きく変動します。単純な所得税率のみで計算すると、実態と乖離した結果になります。
- 為替レートの不正確さ: 外国源泉所得を計算する際の為替レートの選択(取引日レート、平均レートなど)は、税額に影響を与えます。どのレートを使用すべきか、税法を確認する必要があります。
- 外国税額控除の計算上限の誤解: FTCの控除上限額の計算式を正確に理解せず、支払った外国税額の全額が控除できると誤解しているケースが多く見られます。
- 州税・地方税の無視: アメリカでは連邦税だけでなく、州税や地方税も考慮する必要があります。州によって税制が大きく異なるため、居住州の税法も確認が必要です。
- 非居住者・非永住者の扱い: アメリカや日本の税法上の居住者・非居住者、永住者・非永住者の区別によって、課税範囲が異なります。自身のステータスを正確に把握することが重要です。
- 最新税法の確認不足: 税法は頻繁に改正されます。特に国際税務に関する規定は複雑化・変更されることが多いため、常に最新の情報を確認する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 日本で支払った税金がアメリカの税金よりも多い場合、差額は還付されますか?
A1: いいえ、原則として還付されません。外国税額控除(FTC)は、アメリカでの納税額から控除するものであり、アメリカでの納税額を超える金額は控除できず、還付もありません。ただし、アメリカの税法では、控除しきれなかったFTCを将来の年に繰り越したり、過去の年に繰り戻したりできる場合があります。この繰越・繰戻制度の適用可否や上限については、専門家にご相談ください。
Q2: アメリカの州税は外国税額控除の対象になりますか?
A2: いいえ、アメリカの州税は、アメリカ連邦所得税の外国税額控除の対象にはなりません。外国税額控除は、あくまで「外国」で支払った所得税を対象とします。州税はアメリカ国内の税金とみなされます。ただし、一部の州では、州税の計算において、外国で支払った税金を考慮する場合があります。
Q3: Pythonでのシミュレーション結果を、そのまま税務申告に使えますか?
A3: いいえ、Pythonでのシミュレーション結果は、あくまで納税額や税負担を理解・予測するための参考情報としてご利用ください。実際の税務申告は、各国の税法に準拠した正式な計算に基づいて行う必要があり、税務当局が認める計算方法や様式に従う必要があります。複雑な国際税務においては、必ず資格を持つ税理士や税務専門家にご相談の上、正式な申告を行ってください。
Q4: 為替レートの計算で、どのレートを使うべきですか?
A4: アメリカの税法では、外国源泉所得をドルに換算する際の為替レートについて、特定のルールが定められています。一般的には、その取引が発生した日のレート(Transaction Date Rate)または年間の平均レート(Year-end Rate or Average Rate)などが用いられますが、所得の種類や状況によって適用されるレートが異なる場合があります。IRSのガイダンスや税務専門家にご確認ください。Pythonコードでは、シミュレーションの目的に応じて、固定レートや変動レートを設定して分析することが可能です。
まとめ
Pythonを活用した日米の税率差分析と外国税額控除(FTC)のシミュレーションは、国際的な税務における複雑な問題を解き明かすための強力なアプローチです。本記事では、日米の税制の基礎から、Pythonを用いた具体的な税額計算、FTCの仕組み、そして最適化戦略に至るまでを詳細に解説しました。Pythonのプログラミングにより、様々なシナリオでの税負担を可視化し、より有利な税務戦略をデータに基づいて立案することが可能になります。
しかし、国際税務は極めて複雑であり、個々の状況によって適用されるルールが異なります。Pythonによる分析はあくまで参考情報として捉え、最終的な意思決定や税務申告においては、必ず専門の税理士や税務アドバイザーにご相談ください。本記事が、グローバルに活躍される皆様の税務戦略の一助となれば幸いです。
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