「米国に子会社は作らず、日本本社の社員が出張ベースで営業すれば、米国の法人税はかからない」——この理解は半分正しく、半分危険です。日米租税条約のもとでは、日本法人が米国内に恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を持たない限り、米国で得た事業所得に米国の法人税は課されません。しかし、社員の活動内容によっては、オフィスを構えていなくてもPEが「認定」され、遡って申告義務と納税義務が生じます。本記事では、PEの判定基準と、日本本社の社員が米国で営業する際に注意すべき行動を整理します。
PEとは何か:3つの類型
日米租税条約第5条では、PEはおおむね次の3類型で定義されています。
- 固定的施設型:支店、事務所、工場、作業場など、事業を行う「一定の場所」。自社名義で借りたオフィスはもちろん、コワーキングスペースの固定席や、社員の自宅を継続的に業務拠点として使っている場合も該当し得ます。
- 建設工事型:建設・据付工事の現場で、12か月を超えて存続するもの。
- 代理人型:日本法人のために活動する者(社員・代理店)が、日本法人の名において契約を締結する権限を持ち、それを反復・継続的に行使している場合。この場合、その人物の活動自体がPEとみなされます。
PEに該当しない活動:準備的・補助的活動
条約は、次のような活動のみを行う場所はPEに当たらないとしています。
- 商品の保管・展示・引き渡しのみを目的とする施設の使用
- 商品の購入や情報収集のみを目的とする場所の維持
- 広告・市場調査など、準備的または補助的な性格の活動
また、ブローカーや問屋など独立した地位の代理人が通常の業務として行う活動もPEを構成しません。ただし、その代理人が実質的に日本法人の専属で、指揮命令下にある場合は「独立」とは認められない可能性があります。
日本本社の社員が米国で営業するとき、何が危ないのか
最もリスクが高いのは代理人型PEです。典型的なケースを挙げます。
- 米国に駐在する社員(または現地採用の営業担当)が、価格・数量・条件を顧客と交渉し、本社の承認が形式的なまま契約を実質的に締結している
- 社員が米国内の自宅やレンタルオフィスを継続的な業務拠点として使い、名刺や契約書にその住所を記載している
- 米国の販売代理店が、日本法人の指示のもと専属的に活動し、契約締結まで代行している
逆に、社員の活動が「顧客の紹介・製品説明・見積りの取り次ぎ」にとどまり、契約の締結権限が日本本社にあって実際に本社が審査・署名しているのであれば、PEリスクは大きく下がります。実務上は、契約権限を明確に日本に留め、社員の職務記述書や実際の行動をそれに合わせておくことが重要です。
PEが認定された場合の影響
- PEに帰属する事業所得に対して米国の連邦法人税(21%)が課され、Form 1120-Fの提出義務が生じる
- 税引後利益のみなし送金額に対してBranch Profits Tax(条約により0〜5%)が課される
- 申告期限から18か月以内に申告していない場合、経費控除が認められず、売上総額に課税されるリスクがある
- 州税は租税条約の適用を受けないため、PEの有無にかかわらず、州のネクサス(課税上の結びつき)基準で別途課税・申告義務が生じ得る
よくある質問
Q. 米国での活動がPEに当たるか判断がつきません。何もしなくてよいですか?
A. 判断が微妙な場合は、Form 1120-Fを「Protective Return(保護的申告)」として提出しておく方法があります。米国で課税所得がない立場を取りつつ申告書を出しておくことで、後日PEが認定された場合でも経費控除の権利を守れます。詳しくは別記事「Form 1120-F:日本法人が米国源泉所得を得た場合の申告義務とProtective Return」をご覧ください。
Q. 米国子会社があれば、日本本社にPEリスクはありませんか?
A. 子会社の存在自体は親会社のPEにはなりません。ただし、子会社の社員が実質的に日本本社の代理人として本社名義の契約を締結している場合や、本社の社員が子会社のオフィスを拠点に本社の事業を行っている場合は、子会社とは別に本社のPEが認定される可能性があります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。PEの判定は活動の実態に基づく事実認定であり、専門家による個別の検討が必要です。
まとめ
オフィスを構えていなくても、日本本社の社員が米国で契約締結権限を反復的に行使していれば、代理人型のPEが認定され、米国の法人税と申告義務が生じます。準備的・補助的活動にとどめる、契約権限を日本本社に明確に留める、判断が微妙なら保護的申告を行う——この3点を押さえて、米国での営業活動を設計することをおすすめします。
