日本法人が米国に子会社を持たずに米国から収入を得ている場合、「米国で申告が必要なのか」「必要だとしてどの様式か」が最初の疑問になります。答えはForm 1120-F(U.S. Income Tax Return of a Foreign Corporation)です。本記事では、Form 1120-Fの提出が必要になる条件、期限、そして「米国で課税されない」と考えている場合でもあえて提出する「Protective Return(保護的申告)」の考え方を解説します。
Form 1120-Fが必要になる法人
外国法人(日本法人)は、主に次の場合にForm 1120-Fの提出義務を負います。
- 米国内で事業活動(U.S. Trade or Business)を行い、それに実質的に関連する所得(ECI)がある場合。所得の金額にかかわらず提出が必要で、赤字でも同様です。
- 米国源泉の所得について、本来課されるべき源泉徴収が正しく行われていない場合(納税額が残る場合)。
- 日米租税条約に基づいて「米国で課税されない」というポジション(条約ポジション)を取る場合。その旨をForm 8833で開示するために提出します。
一方、米国からの収入が配当・利息・ロイヤリティなどのFDAP所得のみで、支払者側で正しく源泉徴収(条約軽減後の税率を含む)が完了している場合は、原則としてForm 1120-Fの提出は不要です。
提出期限
暦年を課税年度とする場合の期限は、米国内に事務所等を持つかどうかで異なります(2026年時点)。
| 状況 | 提出期限 | 延長後の期限(Form 7004) |
|---|---|---|
| 米国内に事務所・事業所がある | 4月15日(課税年度末から4か月目の15日) | 10月15日 |
| 米国内に事務所・事業所がない | 6月15日(課税年度末から6か月目の15日) | 12月15日 |
期限を過ぎると経費控除が認められない「18か月ルール」
外国法人に特有の厳しいルールとして、Form 1120-Fを本来の提出期限から18か月以内に提出しなかった場合、原則として経費・損金の控除や税額控除が認められず、売上総額(グロス)に対して課税される扱いになります(財務省規則§1.882-4)。「PEはないと思っていたので申告しなかったが、後の税務調査でPEが認定された」というケースでは、このルールにより経費控除なしで課税される深刻な結果になり得ます。
Protective Return(保護的申告)という選択肢
このリスクに備えるのがProtective Returnです。「米国で事業を行っていない」「条約上のPEがないため米国での課税所得はない」という立場を取りつつ、Form 1120-Fを期限内に提出しておく方法です。申告書上は課税所得ゼロ(所得・経費の詳細は記載しない)とし、Protective Returnである旨と条約ポジション(Form 8833)を添付します。
これにより、万一後日IRSが「PEがあった」「米国内で事業を行っていた」と認定しても、18か月ルールによる経費控除の否認を避け、純所得ベースで課税を受ける権利を確保できます。米国で営業活動を行う日本法人にとって、判断が微妙な年度には費用対効果の高い保険といえます。
Form 1120-Fに関連するその他の論点
- Branch Profits Tax:ECIがある場合、税引後利益のみなし送金額に対して追加課税(条約により0〜5%)が生じます。
- 州税:租税条約は州税には適用されません。米国内に販売や従業員がある州では、連邦でPEがなくても州の法人税・フランチャイズ税の申告が必要になることがあります。
- EIN:Form 1120-Fの提出には日本法人自身のEIN(雇用主識別番号)が必要です。Form SS-4で取得します。
よくある質問
Q. 米国の顧客に日本から製品を輸出販売しているだけでも、Form 1120-Fは必要ですか?
A. 日本国内で契約を締結し、日本から出荷するだけの輸出取引であれば、通常は米国内での事業活動には該当せず、Form 1120-Fは不要です。ただし、米国内に在庫を置いて出荷している、米国内の代理人が契約を締結しているといった事情があると判断が変わるため、取引の実態を確認してください。
Q. Protective Returnを出すと、かえって税務調査を招きませんか?
A. Protective Returnは財務省規則で明示的に認められた手続きであり、それ自体が調査の引き金になるものではありません。むしろ、申告がないまま後日PEが認定される方がはるかに不利な結果になります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。提出の要否や条約ポジションの判断は個別事情によって異なるため、専門家にご相談ください。
まとめ
米国内で事業活動を行う日本法人にはForm 1120-Fの提出義務があり、期限は米国内の事務所の有無で4月15日または6月15日です。期限から18か月を過ぎると経費控除が否認されるため、「PEがあるかどうか微妙」な年度は、Protective Returnを提出して権利を守っておくことが実務上の定石です。
