米国から日本に本帰国した後、米国時代の給与の残り、米国株の配当や売却益、米国に残した不動産の賃貸収入、401(k)やIRAといった米国側の所得をどう扱えばよいのか。帰国した年の申告は日米双方で「年の途中で居住者・非居住者が切り替わる」ため、最も間違いが起きやすいタイミングです。この記事では、帰国後に日本の居住者として米国源泉の所得をどのように申告するか、外国税額控除の仕組みと限度額、為替換算のルール、所得の種類ごとの取扱い、そして国外財産調書などの報告義務を2026年時点の制度で整理します。
帰国日から「居住者」:全世界所得が日本の課税対象に
日本国籍を持つ人は、帰国して日本に住所を有した日から所得税法上の居住者(永住者)となり、その日以降は米国源泉のものを含む全世界所得が日本の課税対象になります。帰国した年は、1月1日から帰国日までの非居住者期間(日本国内源泉所得のみが課税対象)と、帰国日以降の居住者期間(全世界所得が課税対象)に分かれ、一つの確定申告書で両方の期間を申告します。翌年からは通常の居住者として、毎年2月16日から3月15日までに申告します。
外国税額控除の基本:二重課税を避ける仕組み
米国源泉の所得について米国で税金を納め、日本でも同じ所得に課税される場合、日本の確定申告で外国税額控除(所得税法95条)を受けることで二重課税を調整します。控除できる金額には限度があり、次の式で計算します。
所得税の控除限度額 = その年の所得税額 × (その年の国外所得総額 ÷ その年の所得総額)
- 所得税の限度額を超える外国税額は、復興特別所得税、さらに住民税(道府県民税・市町村民税)の控除限度額の範囲で控除できます。
- それでも控除しきれない外国税額(控除限度超過額)と、使い切れなかった限度額(控除余裕額)は、翌年以降3年間繰り越せます。
- 控除の対象は、外国の法令により課される所得税に相当する税です。米国の連邦所得税に加え、州の所得税も対象になります。米国の社会保障税や不動産の固定資産税は対象外です。
- 控除を受ける年は、原則として外国税を納付することとなる日(源泉徴収であれば徴収された日、申告納税であれば申告により税額が確定した日)の属する年です。
- 申告書に「外国税額控除に関する明細書」を添付し、Form 1042-S、Form 1099、Form 1040-NRの控えなど、外国税の内容を証明する書類を保存します。
米国の申告と日本の申告のタイミングのずれ
米国の確定申告(帰国後はForm 1040-NR)の期限は翌年4月15日または6月15日で、日本の申告期限(3月15日)より後になります。米国側の税額が確定する前に日本の申告期限が来るため、源泉徴収された税額を基に申告し、米国の税額が確定した後に更正の請求(5年以内)や翌年以降の繰越で調整するのが実務上の対応になります。
為替換算:いつのレートを使うか
米ドル建ての所得や取得費は円に換算して申告します。原則は取引日の電信仲値(TTM)ですが、株式などの譲渡については、譲渡代金を譲渡日の電信買相場(TTB)、取得費を取得日の電信売相場(TTS)で換算する取扱いが一般的です。円安が進んだ局面では、ドルベースでは損失でも円ベースでは利益になることがあり、逆も起こります。米国株を帰国後に売却する場合は、購入時の円換算額の記録が必要になるため、購入日と当時のレートを整理しておいてください。
所得の種類ごとの取扱い
| 所得の種類 | 日本での区分・課税 | 米国側の扱いと外国税額控除 |
|---|---|---|
| 帰国後に受け取った米国の給与・賞与(米国勤務分) | 給与所得として総合課税(支給日が居住者期間なら課税対象) | 米国勤務に対応する部分は米国源泉所得としてForm 1040-NRで申告。米国税は外国税額控除の対象 |
| RSU・ストックオプション(帰国後の権利確定・行使) | 給与所得として総合課税 | 米国勤務日数に対応する部分に米国課税。外国税額控除で調整 |
| 米国株の配当 | 配当所得(申告分離課税20.315%または総合課税) | W-8BENを日本の住所で更新すれば条約により10%源泉。控除対象 |
| 米国株の売却益 | 譲渡所得(申告分離課税20.315%)。円換算後の損益で計算 | 非居住者の株式譲渡益は米国では原則非課税。外国税額控除の対象なし |
| 米国の銀行預金の利子 | 利子所得(総合課税)。国内預金のような源泉分離課税にはならない | 米国では非居住者の預金利子は非課税 |
| 米国不動産の賃貸収入 | 不動産所得(総合課税)。減価償却は日本の税法で再計算。国外中古建物の損失の損益通算制限あり | Net Electionのうえ1040-NRで純額課税。米国税は控除対象 |
| 米国不動産の売却益 | 譲渡所得(分離課税、長期20.315%・短期39.63%) | 米国で課税(FIRPTA源泉15%)。米国税は控除対象 |
| 401(k)・IRAの引き出し | 受取形態により雑所得(公的年金等)、退職所得、一時所得などに区分。判断が分かれやすい | 日米租税条約上、原則として居住地国(日本)で課税。米国で源泉徴収された場合は還付請求や条約適用の手続き |
国外財産調書と財産債務調書
その年の12月31日時点で5,000万円を超える国外財産(米国の預金、株式、不動産、退職口座など)を保有する居住者は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する必要があります。提出がある場合は関連する申告漏れの加算税が軽減され、提出がない場合は加重される仕組みです。また、その年の所得が2,000万円を超え、かつ財産の合計が3億円以上(または有価証券等が1億円以上)の人などは財産債務調書の提出も必要です。帰国後最初の年末は、米国に残した資産の評価額を円換算して該当の有無を確認してください。
米国側の手続きも並行して
- 帰国した年の米国の申告は「二重身分(Dual-Status)」の申告になり、居住者期間はForm 1040、非居住者期間はForm 1040-NRで申告します。
- 米国の証券会社にはForm W-8BENを提出し、日本の居住者として条約の軽減税率(配当10%)を受けます。
- 米国の賃貸物件を残す場合は、Form 1040-NRでNet Electionを継続し、州の申告も忘れないようにしてください。
- グリーンカードを放棄した長期居住者や市民権を放棄した人は、Form 8854の提出と出国税の判定が必要です。
よくある質問
帰国後に米国株を売りました。米国では税金がかからないのに、日本で20%も課税されますか?
はい。日米租税条約により株式の譲渡益は居住地国である日本でのみ課税され、日本では申告分離課税20.315%の対象です。取得費は購入日のレートで円換算するため、円安が進んでいれば円ベースの利益が大きくなる点に注意してください。米国で税金を納めていないので外国税額控除はありません。
米国の税金はまだ確定していません。日本の申告ではどうすればよいですか?
源泉徴収された税額(Form 1042-Sや1099に記載)を基に外国税額控除を計算して申告し、Form 1040-NRで税額が確定した後に更正の請求や翌年以降の繰越で調整します。証拠書類を揃え、専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
401(k)はそのまま米国に残しています。何か申告は必要ですか?
引き出すまでは日本で課税されませんが、残高が国外財産調書の対象になり得ます。引き出した年は日本で申告が必要で、受取形態によって所得区分が変わるため、引き出す前に取扱いを確認してください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新の日本の税法およびIRS規則をご確認のうえ、日米の税務専門家にご相談ください。
まとめ
帰国後は帰国日から日本の居住者として全世界所得を申告し、米国で課税された所得については外国税額控除で二重課税を調整します。控除には限度額があり、3年間の繰越と住民税での控除を組み合わせて使います。所得の種類によって日本での区分や米国側の課税の有無が異なり、為替換算のルールも損益を大きく左右します。米国の申告期限が日本より遅いというタイミングのずれを踏まえ、源泉徴収票や1042-S、1040-NRの控え、購入時の為替レートといった資料を帰国前から整理しておくことが、正確な申告への近道です。
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