米国で10年以上働いた、あるいは日米社会保障協定で加入期間を通算できる。そうした方が日本に帰国し、リタイア後に米国のソーシャル・セキュリティ年金(老齢年金)を日本で受け取るケースが増えています。ところが「どこに申請すればよいのか」「日本の銀行口座で受け取れるのか」「SSAから届くForm SSA-7162とは何か」「米国と日本のどちらで税金がかかるのか」といった実務は意外に知られていません。この記事では、日本に住みながら米国のソーシャル・セキュリティ年金を受給するための手続き、受給中に求められる報告、そして日米双方の税務上の取扱いを、2025年のWEP廃止など最新の制度を踏まえて2026年時点で整理します。
受給資格:40クレジット、または日米社会保障協定による通算
米国の老齢年金を受け取るには、原則として40クレジット(おおむね10年分の就労)が必要です。米国での就労が10年に満たない場合でも、米国で6クレジット以上あれば、2005年10月に発効した日米社会保障協定に基づき日本の年金加入期間を通算して受給資格を判定できます(支給額は米国での加入期間に応じて按分されます)。受給開始は62歳から可能ですが減額され、満額受給年齢(1960年以降生まれは67歳)まで待つと満額、70歳まで繰り下げると増額されます。
WEP(棚ぼた排除規定)は廃止された
従来、日本の厚生年金など社会保障税の対象外の年金を受け取る人は、WEP(Windfall Elimination Provision)により米国の年金が減額されることがありました。2025年1月5日に成立したSocial Security Fairness ActによりWEPとGPOは廃止され、2024年1月分以降の年金には適用されなくなりました。過去に減額されていた人には遡って差額が支払われています。日本の年金を受給していることを理由に米国の年金が減額される仕組みは、現在はありません。
日本からの申請と受取の手続き
- 申請窓口:日本に住む人の申請や相談は、在日米国大使館(東京)の連邦給付ユニット(Federal Benefits Unit、FBU)が窓口です。受給開始希望日の数か月前から申請できます。日本の年金加入期間を通算する場合は、日本年金機構の窓口で協定に基づく申請書を提出する方法もあります。
- 必要書類:SSN、パスポート、出生証明に相当する書類(戸籍など)、婚姻関係の書類、米国の就労記録(W-2など)、日本の年金加入記録など。
- 受取方法:日本の銀行口座への直接振込(International Direct Deposit)が利用でき、日本向けの振込依頼書(Form SSA-1199-JA)で登録します。米国の銀行口座を維持している場合はそちらへの振込も可能です。小切手での受取は紛失や取立ての手間があるため、振込が推奨されています。
- 支給日:米国の年金は翌月払いで、生年月日などにより支給日が決まります。日本の口座への入金は為替換算を経るため、金額は毎月変動します。
受給中の義務:Form SSA-7162と変更の報告
米国外に住む受給者には、SSAから定期的に「Foreign Enforcement Questionnaire(海外受給者調査票、Form SSA-7162。代理受取人の場合はSSA-7161)」が郵送されます。受給者の生存確認と、住所・婚姻状況・就労・他の年金の受給などの変化を確認するための書類で、年齢や代理受取人の有無に応じて1年または2年ごとに送られます。返送しないと年金の支払いが停止されるため、届いたら期限内に記入・署名して同封の返信先に送り返してください。転居した場合は、SSAへの住所変更の届出も別途必要です。このほか、結婚・離婚、受給者の死亡、米国内での就労の開始なども報告事項です。
税務:非居住者は米国では非課税、日本では雑所得
米国側
米国市民でも永住者でもない人(非居住外国人)が受け取るソーシャル・セキュリティ年金には、内国法上、年金額の85%に対して30%(実効25.5%)の源泉徴収がかかります。しかし日米租税条約により、日本の居住者が受け取る米国のソーシャル・セキュリティ年金は米国では課税されず、IRSの刊行物でも日本は免除対象国として明記されています。SSAは受給者の居住国情報に基づいて免除を適用しますが、源泉徴収されている場合はSSAにForm W-8BENを提出して免除を求めてください。一方、米国市民や永住権を維持している人は、日本に住んでいても米国の課税対象であり(所得水準に応じて年金額の最大85%が課税所得)、日本でも課税されるため、外国税額控除で二重課税を調整することになります。
日本側
日本の居住者が受け取る米国のソーシャル・セキュリティ年金は、外国の公的年金として「公的年金等に係る雑所得」に区分され、公的年金等控除の対象になります。日本の年金と異なり日本での源泉徴収がないため、公的年金等の収入が400万円以下でも確定申告不要制度の対象にはならず、原則として毎年確定申告が必要です。受給額は支給日ごとの為替レート(TTM)で円換算し、申告した所得は住民税や国民健康保険料・介護保険料の計算にも反映されます。
| 受給者の区分 | 米国での課税 | 日本での課税 |
|---|---|---|
| 日本居住の非居住外国人(日本国籍など) | 条約により非課税(源泉徴収された場合はW-8BENで免除・還付) | 公的年金等の雑所得として確定申告 |
| 日本居住の米国市民・永住者 | 課税対象(年金額の最大85%が課税所得) | 公的年金等の雑所得として確定申告。二重課税は外国税額控除で調整 |
メディケアはどうするか
メディケアは米国内の医療にしか使えないため、日本に住み続ける人にとってPart B(外来)の保険料(2026年は標準で月202.90ドル)は掛け捨てになります。Part Bをやめる選択もできますが、将来米国に戻って再加入する場合、未加入期間に応じて保険料が恒久的に割り増しされる(12か月ごとに10%)ペナルティがあります。米国に戻る可能性の有無で判断してください。
よくある質問
日本の年金と米国の年金は両方受け取れますか?
はい。それぞれの加入期間に応じた年金を両方受け取れます。WEPの廃止により、日本の年金を理由とした米国の年金の減額はなくなりました。日本の年金は日本で源泉徴収されますが、米国の年金は源泉徴収されないため、確定申告で合算して申告します。
配偶者や遺族も米国の年金を受け取れますか?
一定の要件を満たせば、配偶者年金(本人の年金の最大50%)や遺族年金を受け取れる場合があります。ただし米国市民でない配偶者が米国外に居住している場合は、米国での居住期間などの追加要件があるため、FBUで確認してください。
SSA-7162を返送し忘れて支払いが止まりました。どうすればよいですか?
FBU東京に連絡し、調査票を再提出してください。生存と受給資格が確認されれば、停止期間中の分も含めて支払いが再開されます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、SSAおよびIRSの最新の情報と日本の税法をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
まとめ
米国のソーシャル・セキュリティ年金は、40クレジットまたは日米社会保障協定による通算で受給資格を得られ、日本に住みながらFBU東京を通じて申請し、日本の銀行口座で受け取れます。受給中は1〜2年ごとに届くForm SSA-7162の返送が支払い継続の条件です。税務では、日本居住の非居住外国人は条約により米国で非課税となる一方、日本では公的年金等の雑所得として毎年の確定申告が必要です。2025年のWEP廃止で日本の年金との併給による減額もなくなりました。メディケアPart Bの扱いを含め、帰国後の生活設計に合わせて手続きを整えておきましょう。
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