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残業代の所得控除(No Tax on Overtime):対象になる人・ならない人と W-2 の確認方法

2025 年 7 月 4 日に成立した One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)により、2025 年分から 2028 年分までの 4 年間、「残業代の所得控除」(通称 No Tax on Overtime)が使えるようになりました。名前から「残業代がすべて非課税になる」と受け取られがちですが、実際に控除できるのは、連邦法で支払いが義務づけられた残業代のうち「割増部分」だけです。

この記事は、米国の日系企業で働く現地採用スタッフや駐在員、レストランや工場などで時給で働く人とその家族に向けて、「自分は対象になるのか」「いくら控除できるのか」「W-2 のどこを見ればよいのか」を整理したものです。

特に 2026 年分からは、雇用主が W-2 の Box 12 にコード TT で記載した金額を超えて控除することはできません。年末を前に、自分の区分(exempt か non-exempt か)と給与明細を確認しておくとよい時期です。

結論(要点)

  • 控除の対象は、FLSA(公正労働基準法)第 7 条で支払いが義務づけられた残業代のうち、通常の賃金率を超える部分だけです。1.5 倍で支払われる場合、控除できるのは上乗せの 0.5 倍の部分です。
  • 上限は年 $12,500(夫婦合算申告は $25,000)。修正後 AGI(MAGI)が $150,000(合算申告は $300,000)を超えると、超過額 $1,000 ごとに $100 ずつ減ります。
  • FLSA の残業規定が適用されない exempt(適用除外)の社員は、会社が任意に残業手当を払っていても対象外です。州法や労使協定だけで義務づけられた残業代も対象外です。
  • 本人に就労が認められた有効な SSN(社会保障番号)が必要です。結婚している人は夫婦合算申告(MFJ)でなければ控除できません。
  • 2025 年分は給与明細などから自分で計算できましたが、2026 年分からは W-2 の Box 12・コード TT に記載された金額が上限になります。

「適格残業代」とは:控除できるのは割増部分だけ

IRS は控除の対象を「適格残業代(qualified overtime compensation)」と呼び、FLSA 第 7 条で求められる残業代のうち、通常の賃金率(regular rate)を超える部分と定義しています。FLSA は、1 週間に 40 時間を超えて働いた時間について、通常の賃金率の 1.5 倍以上を支払うよう雇用主に求めています。このうち「1 倍」の部分は通常の給与と同じ扱いで、控除できるのは上乗せの「0.5 倍」の部分です。

Form 1040 の説明書によると、この「0.5 倍」の部分は、給与明細などで「overtime premium」や「FLSA Overtime Premium」と表示されることがあります。IRS のファクトシート FS-2026-13 は、1 週間ごとの計算式を次のように示しています。

週 40 時間を超えた FLSA 上の労働時間 × 2 分の 1 × FLSA 上の通常賃金率 = その週の適格残業代

支払いの形控除の対象になる部分
週 40 時間超の残業に 1.5 倍(time-and-a-half)を支払い上乗せの 0.5 倍の部分(残業代総額の 3 分の 1)
週 40 時間超の残業に 2 倍(double time)を支払いFLSA が最低限求める 0.5 倍の部分だけ(残業代総額の 4 分の 1)
州法や労使協定だけで義務づけられた残業代対象外(FLSA でも義務づけられる部分を除く)
exempt の社員に会社が任意で払う残業手当対象外
週 40 時間を超えていない週の週末・休日の割増手当原則として対象外

この控除は、連邦所得税を計算するときの控除です。FS-2026-13 によると、残業代(適格残業代を含む)は引き続き連邦所得税の源泉徴収や社会保障税などの雇用税の対象です。標準控除を選ぶ人も項目別控除を選ぶ人も使え、Form 1040 の新しい付表 Schedule 1-A で計算します。

対象になる人・ならない人

控除を受けられるのは、FLSA の適用を受け、かつ残業規定の適用除外(exempt)になっていない従業員です。FLSA 上 exempt の人は、州法や労使協定で残業代をもらっていても控除できません。

FS-2026-13 が挙げる主な適用除外には、次のようなものがあります。

  • 管理職(executive)・管理事務職(administrative)・専門職(professional)。小中学校の教員なども含みます。
  • 一部のコンピューター関連職
  • 外勤の営業職(outside sales)
  • 一定の要件を満たす歩合制の小売従業員など

「月給制(サラリー)だから exempt」とは限りません。米国労働省(DOL)は、職名で exempt かどうかが決まるのではなく、職務内容と給与の両方が規則の要件を満たす必要があると説明しています。月給制でも non-exempt として残業代を受け取っている人は、割増部分が控除の対象になります。

日系企業の駐在員・現地スタッフ・オーナーの場合

日系企業の米国拠点では、同じ職場に対象になる人とならない人が混在します。判断の基準は国籍やビザの種類ではなく、FLSA 上の区分です。

働き方の例控除の扱い
時給制で、週 40 時間超の残業に 1.5 倍の残業代が出る現地スタッフ割増部分(0.5 倍)が対象
月給制だが non-exempt に区分され、残業代が出る社員割増部分が対象
管理職などとして exempt に区分される社員(駐在員を含む)対象外
exempt の社員に社内規定で支払われる残業手当対象外
事業の 20% 以上の持分を持ち、経営に実際に携わるオーナー兼従業員管理職として exempt 扱いのため対象外

最後の点は、E-2 ビザなどで飲食店や小売店を経営する人にも関係します。FS-2026-13 は、事業の 20% 以上の実質的な(bona fide)持分を持ち、経営に積極的に携わる従業員を、FLSA の残業規定の適用除外となる管理職として扱うと説明しています。

自分の区分がわからない場合は、まず勤務先の人事・給与担当に「FLSA 上 exempt か non-exempt か」を確認してください。

SSN と申告ステータスの要件

適格残業代を受け取った本人に有効な SSN が必要で、申告書にその番号を記載しなければなりません。ここでいう有効な SSN とは、就労が認められたもので、申告期限(延長を含む)までに社会保障局(SSA)から発行されたものです。SSN カードに「Valid for Work Only with DHS Authorization」と印字されている場合は、国土安全保障省(DHS)の就労許可が有効な間だけ有効な SSN として扱われます。ITIN(個人納税者番号)は SSN ではないため、この要件を満たしません。夫婦がともに適格残業代を受け取った場合は、2 人とも有効な SSN が必要です。

結婚している人は、夫婦合算申告(Married Filing Jointly)でなければ控除できません。夫婦個別申告(MFS)では使えません。

配偶者が日本に住んでいて米国税法上の非居住者である場合、そのままでは合算申告ができません。本人が米国市民または居住者であれば、非居住者の配偶者を米国居住者として扱う選択をして合算申告をする方法があります(IRS Publication 519)。ただし、この選択をすると配偶者の日本の所得も含めて全世界所得が米国の課税対象になるため、控除額だけで判断せず全体の税額を比べる必要があります。

非居住外国人(Form 1040-NR)の場合

F-1・J-1 ビザの学生や研修生など、米国税法上の非居住外国人に当たる人が提出する Form 1040-NR にも、Schedule 1-A の控除を記入する欄(line 13c)があります。ただし Form 1040-NR では夫婦合算申告を選べないため、結婚している非居住外国人は原則としてこの控除を受けられません。なお、そもそも働いてよいかどうかは移民法の問題で、この記事では扱いません。

上限と所得制限(フェーズアウト)

申告ステータス控除の上限減額が始まる MAGI
独身・特定世帯主(HOH)など$12,500$150,000
夫婦合算申告(MFJ)$25,000$300,000
夫婦個別申告(MFS)控除不可—

MAGI(修正後 AGI)は、AGI に、外国勤労所得控除(内国歳入法 911 条)などで所得から除外した金額を足し戻したものです。年の途中まで日本で働き、外国勤労所得控除を使った人は、その除外額も MAGI に含まれます。

計算の順序は Schedule 1-A のとおりです。まず適格残業代を上限($12,500 または $25,000)で頭打ちにし、次に MAGI が基準額を超えた分を $1,000 で割って端数を切り捨て、その数に $100 を掛けた額を差し引きます。

この控除は AGI を計算した後に差し引く控除(Form 1040 の line 13b)なので、AGI そのものは下がりません。

W-2 の確認方法:2025 年分と 2026 年分の違い

2025 年分

2025 年分には経過措置があり、雇用主は適格残業代を W-2 などに区分して記載する義務がありませんでした。任意で W-2 の Box 14 に記載したり、オンラインのポータルや別紙で知らせたりした雇用主もあります。

区分表示がない場合は、Notice 2025-69 が認める方法で自分で計算できます。たとえば 1.5 倍の残業代の総額しかわからないときはその 3 分の 1、2 倍で支払われた残業代なら総額の 4 分の 1 が割増部分です。計算の根拠になる給与明細は保管しておきましょう。2025 年分の申告でこの控除を入れていなかった人は、修正申告(Form 1040-X)を検討できます。

2026 年分以降

2026 年分からは、雇用主が適格残業代を W-2 の Box 12 にコード TT で記載することが義務になりました。FS-2026-13 は、2026 年以降について、Box 12・コード TT に記載された金額を超える分は控除の計算に含められないと明記しています。

  • Box 12 にコード TT の記載がない、または金額が少ない場合は、雇用主に訂正版の W-2c を依頼します。訂正されない限り、記載のない部分は控除できません。
  • W-2 を受け取れないときに使う代替書式 Form 4852 では、この要件を満たしません。
  • コード TT の金額が実際より多い場合は、実際に受け取った適格残業代までしか控除できません。

年末までにできること

  1. 人事・給与担当に、自分が FLSA 上 non-exempt かどうかを確認する。
  2. 給与明細で、週 40 時間を超えた残業時間と支払い率(1.5 倍・2 倍など)を確認し、記録を残す。
  3. 2026 年版 Form W-4 の Step 4(b)(控除の欄)でこの控除を見込み、源泉徴収額を調整するか検討する。雇用主は、新しい W-4 の提出がない限り源泉徴収を減らせません。
  4. 2026 年分の W-2 を受け取ったら、Box 12 のコード TT を自分の記録と照らし合わせる。

計算例

例:以下の数字はすべて説明のための仮のものです。

例 1:時給で働く独身のスタッフ

時給 $30、2026 年の FLSA 上の残業が合計 500 時間(すべて 1.5 倍で支払い)、MAGI が $80,000 の場合です。

  • 残業代の総額:500 時間 × $45 = $22,500
  • 適格残業代(割増部分):500 時間 × $15 = $7,500(総額の 3 分の 1)
  • MAGI は $150,000 以下なので減額なし。控除額は $7,500

限界税率を 22% と仮定すると、連邦所得税は約 $1,650 少なくなります。一方、社会保障税・メディケア税は残業代 $22,500 の全額にかかります。

例 2:共働き夫婦(合算申告)で上限と減額がかかる場合

夫婦の適格残業代が合計 $28,000、MAGI が $310,000 の場合です。

  • 上限で頭打ち:$28,000 → $25,000
  • 減額:($310,000 − $300,000)÷ $1,000 = 10 → 10 × $100 = $1,000
  • 控除額:$25,000 − $1,000 = $24,000

例 3:端数の切り捨て

独身で適格残業代が $8,000、MAGI が $175,500 の場合、超過額 $25,500 ÷ $1,000 = 25.5 を切り捨てて 25、減額は 25 × $100 = $2,500 です。控除額は $8,000 − $2,500 = $5,500 になります。

よくある質問

月給制(サラリー)だと対象外ですか?

給与の払い方だけでは決まりません。FLSA 上 exempt かどうかは職務内容と給与の要件で判断されます。月給制でも non-exempt として FLSA 上の残業代を受け取っていれば、割増部分は対象です。

2 倍の残業代をもらっています。全額控除できますか?

できません。対象は FLSA が求める最低限の割増部分(通常賃金率の 0.5 倍)だけです。2 倍で支払われた残業代なら、総額の 4 分の 1 に当たります。

2026 年分の W-2 に Box 12 のコード TT がありません。

雇用主に訂正版の W-2c を依頼してください。2026 年分以降は、W-2 の Box 12・コード TT に記載された金額を超えて控除することはできません。

社会保障税や州税も安くなりますか?

この控除は連邦所得税の控除です。社会保障税・メディケア税などの雇用税は、残業代の全額にかかります。州所得税の扱いは州ごとに異なるため、居住する州のルールを確認してください。

日本に住む配偶者がいても控除できますか?

結婚している場合は合算申告が条件です。配偶者が米国の非居住者なら、配偶者を米国居住者として扱う選択をして合算申告をしない限り、控除は受けられません。選択の影響は大きいため、事前に試算することをおすすめします。

CLT NY INC. では、IRS 公認の米国税理士(Enrolled Agent)が日本語で、残業代の所得控除をはじめとする 2025〜2028 年の新しい控除の確認や確定申告に対応します。お問い合わせはこちら。

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出典:IRS: Tax deductions for working Americans and seniors/IRS FS-2026-13: Updates to questions and answers about the new deduction for qualified overtime compensation/IRS FS-2026-01: Questions and answers about the new deduction for qualified overtime compensation/IRS IR-2025-114/IRS Notice 2025-69/IRS Schedule 1-A (Form 1040)/IRS 2025 Instructions for Form 1040 (Schedule 1-A)/IRS 2026 General Instructions for Forms W-2 and W-3/IRS Instructions for Form 1040-NR/IRS 2026 Form 1040-ES (NR)/IRS Publication 519/U.S. Department of Labor Fact Sheet #17A。2026 年 10 月時点の情報です。この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務アドバイスではありません。

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