2025年7月4日に成立したOne Big Beautiful Bill Act(OBBBA)は、2017年のトランプ減税(TCJA)の多くを恒久化したうえで、チップや残業代の非課税、SALT控除上限の拡大、子供向けの「Trump Accounts」など多数の新制度を導入した大型税制改正です。2025年分の申告から適用が始まり、2026年分からさらに適用範囲が広がる項目もあります。この記事では、米国に住む日本人の駐在員・起業家・投資家、そして日本から米国に関わる人に影響が大きい変更点を、個人・家族・事業・投資の順に2026年時点の金額で整理します。個別の制度の詳細は関連記事もあわせてご覧ください。
個人の基本項目:税率・標準控除・SALT控除
| 項目 | 改正内容 | 適用時期 |
|---|---|---|
| 所得税率 | TCJAの7段階の税率(10〜37%)を恒久化。2026年の単身の37%区分は課税所得640,600ドル超 | 恒久 |
| 標準控除 | 恒久化・引き上げ。2025年は単身15,750ドル・夫婦合算31,500ドル、2026年は単身16,100ドル・夫婦合算32,200ドル・世帯主24,150ドル | 恒久 |
| 人的控除 | ゼロを恒久化 | 恒久 |
| SALT控除上限 | 10,000ドルから2025年は40,000ドル、2026年は40,400ドルへ。MAGIが500,000ドル(2026年は505,000ドル)を超えると縮小し、最低10,000ドル。2030年に10,000ドルに戻る | 2025〜2029年 |
| 高齢者向け追加控除 | 65歳以上に1人6,000ドル(夫婦とも該当なら12,000ドル)。MAGIが75,000ドル(夫婦合算150,000ドル)超で縮小。SSN必須 | 2025〜2028年 |
| 住宅ローン利子 | 控除対象となる借入額の上限750,000ドルを恒久化。住宅ローン保険料(PMI)の控除を2026年から復活 | 恒久/2026年〜 |
| 引越費用 | 控除・非課税扱いの廃止を恒久化(軍人等を除く) | 恒久 |
働く人向けの新しい控除(2025〜2028年の時限措置)
いずれも項目別控除を選ばなくても使える「標準控除の上乗せ型」の控除で、Schedule 1-Aで申告します。夫婦は合算申告が条件で、いずれもSSNが必要です。非居住者(Form 1040-NR)は原則として対象外です。
- チップの非課税:チップを受け取ることが慣習となっている職種で受け取った適格チップについて、年間25,000ドルまで控除。MAGIが150,000ドル(夫婦合算300,000ドル)を超えると縮小。飲食店やサロンなどで働く人が対象で、雇用主のW-2への記載が前提です。
- 残業代の非課税:公正労働基準法(FLSA)に基づく残業の割増部分について、年間12,500ドル(夫婦合算25,000ドル)まで控除。MAGIの縮小基準は同じく150,000ドル/300,000ドル。
- 自動車ローン利子:米国で最終組立てされた新車を個人利用目的で購入した場合のローン利子を年間10,000ドルまで控除。MAGIが100,000ドル(夫婦合算200,000ドル)を超えると縮小し、150,000ドル/250,000ドルで消滅。
家族向け:Child Tax Credit・Trump Accounts・育児関連
- Child Tax Credit(児童税額控除):子供1人あたり2,200ドルに引き上げ、以後インフレ調整(2026年も2,200ドル、還付可能部分は1,700ドル)。子供のSSNに加え、納税者本人(夫婦合算の場合は少なくとも一方)のSSNが必要になりました。ITINしか持たない親が子供の控除を受けられなくなる点は、駐在員の家族に影響し得る重要な変更です。
- Trump Accounts:2025年から2028年の間に生まれ、SSNを持つ米国市民の子供には、親が申告書で選択することで連邦政府が1,000ドルを初回拠出する子供向け投資口座。2026年7月4日から口座への拠出が可能で、年間の拠出上限は5,000ドル(うち雇用主の拠出は2,500ドルまで)。
- 育児費用:2026年からDependent Care FSAの拠出上限が5,000ドルから7,500ドルに、Child and Dependent Care Creditの最大控除率が35%から50%に引き上げられます。
- 529プラン:2026年からK-12(小中高)の学費に使える上限が年間10,000ドルから20,000ドルに拡大し、対象費用も広がりました。
- 遺産税・贈与税:基礎控除額を2026年に1,500万ドル(夫婦で3,000万ドル)に引き上げ、恒久化・インフレ調整。年間贈与非課税枠は19,000ドル。
事業主・フリーランス向け
- QBI控除(Section 199A):パススルー所得の20%控除を恒久化。2026年から所得制限の逓減幅が単身75,000ドル・夫婦合算150,000ドルに拡大し、積極的な事業から1,000ドル以上のQBIがある人には最低400ドルの控除を保証。
- ボーナス償却:2025年1月19日より後に取得した資産について100%のボーナス償却を恒久化。Section 179の即時償却限度額は2026年で2,560,000ドル。
- 研究開発費(Section 174A):米国内の研究開発費の即時償却を復活・恒久化。
- 1099の発行基準:Form 1099-Kは年間20,000ドル超かつ200件超に戻り、Form 1099-NEC/MISCの発行基準は2026年の支払いから600ドルから2,000ドルに引き上げ。
- 接待交際・その他:超過事業損失の制限を恒久化。ギャンブル損失は2026年から勝ち分の90%までしか控除できなくなりました。
投資家・寄付・その他
- 寄付金控除:2026年から、項目別控除を選ばない人でも現金寄付を1,000ドル(夫婦合算2,000ドル)まで控除可能に。一方、項目別控除を選ぶ人の寄付金控除にはAGIの0.5%の足切りが導入され、最高税率区分の人は項目別控除の効果が35%相当に制限されます。
- 送金税:2026年1月1日以降、現金・マネーオーダー・キャッシャーズチェックなどで資金を渡して行う海外送金に1%の消費税(送金者負担、送金業者が徴収)。銀行口座や米国発行のデビット・クレジットカードから資金を出す送金は対象外です。日本への仕送りは口座振替型のサービスを使えば影響を受けません。
- クリーンエネルギー関連:EV購入の税額控除は2025年9月30日より後に取得した車両から廃止、住宅用太陽光などの控除も2025年末で終了。
- 代替ミニマム税(AMT):2026年から免除額の逓減開始点が2018年水準(単身500,000ドル・夫婦合算1,000,000ドル)に戻り、逓減率も50%に上昇。高所得者は要注意。
在米日本人が特に確認すべきポイント
- 家族のSSN・ITINの状況:CTCは親のSSNが必須になりました。配偶者がITINのみの場合の申告方法(合算か個別か)を再検討してください。
- SALT控除の恩恵:ニューヨーク・ニュージャージー・カリフォルニアなど高税率地域の持ち家世帯は、項目別控除に切り替えることで大きく減税になる可能性があります。
- 駐在員の引越費用・住宅手当:引越費用の課税は恒久化され、Tax Equalizationの計算にも影響します。
- 日本への送金:現金で送金業者に持ち込む方式は1%課税の対象です。
- 非居住者(1040-NR):標準控除やチップ・残業・自動車ローン・高齢者控除は原則として使えません。
よくある質問
2025年分の申告で新しい控除を使い忘れました。修正できますか?
Form 1040-Xで修正申告ができます。チップ・残業・自動車ローン利子・高齢者控除はSchedule 1-Aで申告する控除なので、W-2の記載や証憑を確認したうえで修正申告を検討してください。
日本に住む米国市民にも影響はありますか?
標準控除の引き上げやCTCの変更(子供と親のSSN要件)、寄付金控除の改正、遺産税の基礎控除拡大などは海外居住者にも適用されます。一方、チップ・残業の控除は米国内の雇用を前提とした制度で、外国勤労所得控除との関係も含めて実務上の恩恵は限定的です。
OBBBAの時限措置はいつ終わりますか?
チップ・残業・自動車ローン利子・高齢者控除は2028年分まで、SALT控除上限の拡大は2029年分まで(2030年に10,000ドルへ)、Trump Accountsの1,000ドル初回拠出は2028年末までに生まれた子供が対象です。標準控除、税率、QBI控除、ボーナス償却、遺産税の基礎控除などは恒久措置です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則をご確認のうえ、米国税務の専門家にご相談ください。
まとめ
OBBBAは、標準控除・税率・QBI控除・ボーナス償却・遺産税基礎控除の恒久化という「土台」の上に、SALT控除の拡大、チップ・残業・自動車ローン利子・高齢者向けの時限的な控除、CTCの増額とSSN要件、Trump Accounts、寄付金控除の見直し、1%の送金税といった新制度を積み上げた改正です。在米日本人にとっては、家族のSSN要件、SALT控除による項目別控除への切替、駐在員の引越費用の扱い、日本への送金方法が特に実務に直結します。時限措置の期限を把握し、2026年以降の申告に向けて早めに準備を進めてください。
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