米国市民やグリーンカード保持者など、米国の税務上の居住者は、どこに住んでいても全世界の所得を米国で申告します(IRS Publication 54)。日本の証券会社の口座(特定口座など)で日本株を売った場合も例外ではありません。
ただし、日本の証券会社からは、通常、米国の Form 1099-B は届きません。売却損益は自分でドルに換算し、Form 8949 と Schedule D に書く必要があります。さらに「源泉徴収あり」の特定口座では日本の税金が差し引かれているため、米国の外国税額控除(Foreign Tax Credit)で二重課税を調整できるかも確認が必要です。
この記事では、米国に住んでいる人と、日本に住んでいる米国市民・グリーンカード保持者の両方について、日本株の売却を米国でどう申告するかを整理します。年内に売却を考えている方は、為替レートによってドル建ての損益が大きく変わるため、売る前に一度試算しておくと安心です。
結論/要点
- 日本株の売却益(損)は米国の申告対象です。Form 1099-B がない取引は、Form 8949 の Box C(保有 1 年以下)または Box F(1 年超)で報告し、合計を Schedule D に移します。
- 取得価額は買ったとき、売却代金は売ったときの為替レートでそれぞれドルに換算します。円で利益が出ていても、ドルでは損失になることがあります(逆もあります)。
- 同じ銘柄を何回かに分けて買った場合、日本では「総平均法に準ずる方法」で取得費を計算します。米国では売った株を特定できなければ先に買った株から売ったもの(FIFO)とみなすため、金額がずれることがあります。
- 日本に住む米国市民などは、源泉徴収された日本の税金(所得税等 15.315%、他に住民税 5%)を、通常は Form 1116 の外国税額控除で調整できます。米国に住む人の上場株式の売却益には、原則として日本の税金はかかりません。
- 日本の投資信託・ETF は PFIC(受動的外国投資会社)に当たる可能性があり、個別株とは別のルールになります。
住んでいる国で何が変わるか
同じ日本株の売却でも、売る人がどこに住んでいるかで、日本側の課税と米国の外国税額控除の扱いが変わります。
| 米国に住んでいる人(日本の非居住者) | 日本に住んでいる米国市民・グリーンカード保持者 | |
|---|---|---|
| 米国での申告 | 必要(全世界所得課税) | 必要(日米租税条約にも、米国が自国の市民・居住者に課税できるとする規定があります) |
| 日本での課税 | 恒久的施設のない非居住者による上場株式の売却は、買集めや事業譲渡類似などの例外を除き、日本の申告対象になりません。条約上も、原則として居住地国(米国)だけが課税できます | 源泉徴収ありの特定口座なら、利益に対して所得税・復興特別所得税 15.315%(他に住民税 5%)が源泉徴収されます |
| 米国での売却益の源泉 | 米国源泉(米国居住者が売った動産) | 国外に tax home があり、利益の 10% 以上の所得税を外国で払った場合は外国源泉 |
| 外国税額控除 | 通常、対象になる日本の税金はありません | Form 1116 で計算します |
tax home とは、主な勤務地がある地域のことです(Publication 514)。また、国税庁の説明では、特定口座は「居住者等」が開設する口座です。日本を出国して非居住者になる場合、口座を続けられるか、売却できるかなどの扱いは、証券会社の手続きを確認してください。
ドル換算のしかた:取得価額と売却代金は別々のレートで
IRS は、申告書の金額をすべてドルで書き、外貨で受け取った収入や支払った費用はドルに換算するよう求めています。換算には、受け取ったとき・支払ったときのレートを使うのが原則です。IRS に「公式レート」はなく、一貫して使うのであれば公表されているレートを使えます。
株の取得価額(basis)は、購入代金に手数料などの購入費用を加えた金額です(Form 8949 の説明書)。これを買ったときのレートでドルに換算し、手数料を差し引いた売却代金は売ったときのレートで換算します。
| 円 | 為替レート(仮定) | ドル | |
|---|---|---|---|
| 購入(2020 年) | ¥2,000,000 | 1 ドル=100 円 | $20,000 |
| 売却(2026 年) | ¥3,000,000 | 1 ドル=150 円 | $20,000 |
| 損益 | ¥1,000,000 の利益 | — | $0 |
この例では、日本では 100 万円の利益として課税されますが、米国のドル計算では損益ゼロです。反対に、円高の時期に売ると、円では損でもドルでは利益になることがあります。
売却代金を円のまま持っておき、後でドルに替えた場合は、その間の為替の動きで別の為替差損益(Section 988)が生じることがあります。仕組みは 未実現の為替差益とSection 988 (Forex Gains): 円安による「ファントムゲイン」の課税リスクと免税範囲 で解説しています。
特定口座の取得費は米国でそのまま使えないことがある
日本では、同じ銘柄を 2 回以上に分けて買った場合、「総平均法に準ずる方法」で 1 株あたりの取得費を計算します(国税庁 No.1466)。証券会社が計算する特定口座の取得費も、日本のルールに沿った金額です。
一方、米国では、売った株を特定できればその株の取得価額を使い、特定できない場合は先に買った株から売ったものとして計算します(FIFO)。一部の投資信託を除き、1 株あたりの平均単価は使えません(Publication 550)。
そのため、同じ銘柄を何回かに分けて買っている場合は、日本の報告書の数字とは別に、購入日ごとの株数・単価・手数料がわかる取引報告書などを残しておく必要があります。購入日がわかれば、その日のレートでドル換算もできます。
Form 8949 と Schedule D の書き方
Form 1099-B を受け取っていない取引は、保有 1 年以下なら Part I の Box C、1 年超なら Part II の Box F にチェックして報告します(Box I・L はデジタル資産用です)。保有期間は、取得した日の翌日から数え、売った日を含めます。
| 欄 | 日本株の場合に書く内容 |
|---|---|
| (a) 資産の説明 | 銘柄名と株数(例:100 sh. ○○ Corp.) |
| (b) 取得日 | 約定日(trade date) |
| (c) 売却日 | 約定日(trade date) |
| (d) 売却代金 | 手数料を引いた売却代金をドルに換算した額 |
| (e) 取得価額 | 購入代金と手数料をドルに換算した額 |
| (h) 損益 | (d) から (e) を引いた額 |
取引が多い場合は、同じ情報を同じ形式でまとめた明細書を添付する方法も認められています(Form 8949 の説明書の Exception 2)。
保有 1 年超の長期譲渡益には、課税所得に応じて 0%・15%・20% の税率がかかります。売却損は利益と相殺し、残った損失は年 $3,000(夫婦個別申告は $1,500)まで他の所得から差し引けます。超えた分は翌年以降に繰り越せます(Topic 409)。繰越のルールは 米国株・仮想通貨の損失繰越(Capital Loss Carryover)ルール:年間3,000ドル控除を活用する節税術 をご覧ください。
源泉徴収ありの特定口座と外国税額控除
源泉徴収ありの特定口座では、売却のたびに、利益に対して所得税・復興特別所得税 15.315%(他に住民税 5%)が源泉徴収されます。配当も同じ口座で受け取る設定にしていれば、口座内の譲渡損失と配当を相殺したうえで税額が計算されます(国税庁 No.1476)。1 年間の合計は、証券会社から届く特定口座年間取引報告書で確認すると便利です。
外国税額控除の対象になるのは、(1) 自分に課された、(2) 実際に支払った、(3) 法的に確定した、(4) 所得税(またはそれに代わる税)という 4 つの条件を満たす外国の税金です。外国の市や県などが課す所得税も対象になるため、住民税の部分も含めて検討できます(Publication 514)。
注意したいのが「源泉地」です。外国税額控除は、外国源泉所得にかかる米国の税金しか減らせません。株の売却益は原則として売り手の居住地で源泉が決まり、国外に tax home がある米国市民・居住者は、売却益の 10% 以上の所得税を外国で払った場合に限って外国源泉として扱われます。Publication 514 は、日本に住む米国市民には条約にもとづく特別な計算ルールがあることも示しています。
- 控除額は Form 1116 で計算します。株の売却益は通常 passive カテゴリー(受動的所得)に入り、外国源泉のキャピタルゲインには調整が必要になる場合があります(Form 1116 の説明書)。
- 源泉徴収された税金は、源泉徴収された日のレートでドルに換算します(Publication 514)。
- その年に使い切れない分は、前年に 1 年繰り戻し、翌年以降 10 年繰り越せます。
- Form 1116 を省略できる簡易な選択もありますが、Form 1099-DIV などの payee statement に記載された所得・税金であることなどが条件です(Topic 856)。日本の証券会社の書類だけの場合は、Form 1116 を作る前提で準備しておくと安全です。
米国に住んでいる人の場合、上場株式の通常の売却益には原則として日本の税金がかからないため、外国税額控除の出番は通常ありません。本来かからない税金や還付を受けられる部分は、外国税額控除の対象になりません(Publication 514)。口座が日本の居住者向けの扱いのままになっていないか、証券会社に確認しておきましょう。
日本の投資信託・ETF は PFIC に注意
日本の投資信託や ETF は、米国税法の PFIC(受動的外国投資会社:総所得の 75% 以上が受動的所得、または資産の 50% 以上が受動的所得を生む資産である外国法人)に当たる可能性があります。PFIC の売却益は通常のキャピタルゲインとは計算が異なり、Form 8621 の提出が必要になる場合もあります(Form 8621 の説明書)。
仕組みと対策は 日本の投資信託はPFIC?米国在住者が知るべき高額課税リスクと回避策(QEF) と 日本のNISA・iDeCoは米国で課税対象!PFIC問題と知らずに保有し続けるリスク で詳しく解説しています。この記事は個別株の売却を前提にしています。
計算例
例:東京に住む米国市民が、源泉徴収ありの特定口座で同じ銘柄を売った 2 つのケースです。為替レートは仮定、手数料は省略し、米国の税率は長期譲渡益の 15% と仮定します。
| ケース 1(円安のときに売却) | ケース 2(円高のときに売却) | |
|---|---|---|
| 購入 | ¥2,000,000(1 ドル=100 円)=$20,000 | ¥2,000,000(1 ドル=150 円)=$13,333 |
| 売却 | ¥3,000,000(1 ドル=150 円)=$20,000 | ¥2,400,000(1 ドル=120 円)=$20,000 |
| 円での利益 | ¥1,000,000 | ¥400,000 |
| 日本の税金(20.315%) | ¥203,150(約 $1,354) | ¥81,260(約 $677) |
| ドルでの利益 | $0 | $6,667 |
| 米国の税金(15% と仮定) | $0 | $1,000 |
| 外国税額控除後(簡略計算) | $0 | 約 $323($1,000 − $677) |
ケース 1 では、日本で 20 万円以上の税金を払っていても、ドル建ての利益がないため、この取引について差し引く米国の税金がありません。使えなかった日本の税金は、他の外国源泉所得や繰り戻し・繰り越しで使えるかを検討します。ケース 2 では、円の利益は 40 万円ですが、ドルでは $6,667 の利益になり、日本の税金を差し引いても米国で税金が残ります。実際の控除額は Form 1116 の限度額計算で決まるため、この例より小さくなることもあります。
よくある質問
特定口座年間取引報告書の合計額を、まとめてドルに換算してもいいですか?
IRS の原則は、受け取ったとき・支払ったときのレートで換算することです。取得価額と売却代金は日付が違うため、取引ごとに買った日・売った日のレートで換算するのが基本です。年間取引報告書は、日本の税額の確認や突き合わせに使いましょう。
円では利益なのに、ドルでは損失になりました。損失として申告できますか?
米国の申告はドルで計算するため、ドル建ての売却損として扱います。他の売却益と相殺し、残りは年 $3,000(夫婦個別申告は $1,500)まで差し引けて、超えた分は繰り越せます。
日本の証券口座は FBAR の対象ですか?
はい。外国の証券口座は外国金融口座に当たり、Schedule B の Part III で「Yes」と答えます。日本の口座の合計残高が年中いずれかの時点で $10,000 を超えれば FBAR の提出が必要です。Form 8938 の基準額は、住んでいる国や申告区分で異なります。詳しくは FBARとForm 8938(FATCA)の違い:報告基準額・対象資産・期限・罰則を一覧で比較【2026年版】 をご覧ください。
NISA 口座で売った場合も米国で申告が必要ですか?
米国の法律で非課税とされていない限り、外国の投資所得は申告対象です(Publication 550)。NISA の売却益も米国では申告が必要で、NISA で投資信託を持っている場合は PFIC の問題もあります。日本のNISA・iDeCoは米国で課税対象!PFIC問題と知らずに保有し続けるリスク で解説しています。
日本に帰国した後に米国の株を売る場合は?
日本の居住者として、日本でも申告が必要になります(米国市民やグリーンカード保持者は、引き続き米国でも申告します)。日本側の申告は 帰国後の日本の確定申告:米国の給与・株式・不動産所得を日本でどう申告し外国税額控除を受けるか で解説しています。
CLT NY INC. では、IRS 公認の米国税理士(Enrolled Agent)が日本語で、日本株や日本の証券口座をお持ちの方の米国確定申告(Form 8949・Form 1116・FBAR など)に対応します。お問い合わせはこちら。
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- 帰国後の日本の確定申告:米国の給与・株式・不動産所得を日本でどう申告し外国税額控除を受けるか
出典:IRS Publication 54 (2025)/IRS: Foreign currency and currency exchange rates/IRS: Yearly average currency exchange rates/IRS: Instructions for Form 8949 (2025)/IRS Topic No. 409/IRS Publication 550 (2025)/IRS Publication 514 (2025)/IRS Topic No. 856/IRS: Instructions for Form 1116 (2025)/IRS: Instructions for Schedule B (2025)/IRS: Comparison of Form 8938 and FBAR requirements/IRS: Instructions for Form 8621/日米租税条約(2003 年署名、米財務省)/国税庁 No.1476 特定口座制度/国税庁 No.1466 同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費/国税庁 No.1936 海外勤務中に株式を譲渡した場合。2026 年 10 月時点の情報です。この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務アドバイスではありません。
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