米国でフリーランスとして働く人、LLCやS法人で事業を営むオーナー、パートナーシップの持分を持つ投資家にとって、事業所得の20%を課税所得から差し引けるQBI控除(Qualified Business Income Deduction、Section 199A)は最も効果の大きい節税制度の一つです。2017年のトランプ減税で導入された時限措置でしたが、2025年のOBBBAで恒久化され、2026年からは所得制限の仕組みも一部緩和されました。この記事では、QBI控除の計算の基本、対象になる所得とならない所得、2026年の所得制限額と「特定サービス業(SSTB)」の扱い、OBBBAによる変更点、そして日本人オーナーが見落としやすい注意点を2026年時点の制度で解説します。
QBI控除の基本:事業所得の20%を控除
QBI控除は、パススルー事業(個人事業=Schedule C、パートナーシップ、S法人、事業として行う不動産賃貸など)から生じる適格事業所得(QBI)の20%を、調整後総所得から差し引く控除です。標準控除・項目別控除のどちらを選んでも使えます。控除額は次の2つのうち小さい方です。
- 適格事業所得(QBI)の20%(適格REIT配当と上場パートナーシップ所得の20%を加算)
- 課税所得(QBI控除前)から純キャピタルゲインを差し引いた金額の20%
たとえばフリーランスの純利益が80,000ドルで、他に所得がなく標準控除後の課税所得が60,000ドルであれば、控除額は80,000ドル×20%=16,000ドルではなく、60,000ドル×20%=12,000ドルが上限になります。申告はForm 8995(簡易版)またはForm 8995-Aで行い、C法人の所得や給与には適用されません。
QBIに含まれない所得
- 従業員としての給与(W-2)、S法人オーナーが自分に支払う適正給与、パートナーへの保証支払い
- キャピタルゲイン・ロス、配当、事業に関係のない利子所得
- 米国外で行った事業活動から生じた所得(QBIは米国内の事業に実質的に関連する所得に限られます。日本での業務による報酬は対象外です)
- QBIの計算では、自営業税の半額控除、自営業者の健康保険料控除、SEP・Solo 401(k)などへの拠出額をQBIから差し引く必要があります。
所得制限:2026年の基準額と逓減の仕組み
課税所得(QBI控除前)が基準額以下であれば、事業の種類を問わず20%控除をそのまま使えます。2026年の基準額は単身201,750ドル、夫婦合算403,500ドルです。基準額を超えると、以下の2つの制限が段階的に効いてきます。OBBBAにより、2026年からこの逓減の幅(フェーズイン・レンジ)が従来の50,000ドル/100,000ドルから75,000ドル/150,000ドルに拡大されたため、単身では276,750ドル、夫婦合算では553,500ドルで制限が完全に適用されることになります。
| 事業の種類 | 基準額以下(2026年:単身201,750ドル・夫婦合算403,500ドル) | 逓減レンジ内 | レンジ超(単身276,750ドル・夫婦合算553,500ドル以上) |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | QBIの20% | W-2賃金・資産(UBIA)制限を段階的に適用 | 控除はW-2賃金の50%、または賃金の25%+適格資産の取得価額の2.5%のいずれか大きい方が上限 |
| 特定サービス業(SSTB) | QBIの20% | 控除が段階的に縮小 | 控除なし |
特定サービス業(SSTB)とは
医療、法律、会計、コンサルティング、金融サービス、投資運用、舞台芸術、スポーツ、ブローカー業など、そして「事業の主たる資産がオーナーや従業員の評判・技能である事業」は特定サービス業(Specified Service Trade or Business)とされ、所得が基準額を超えると控除が縮小し、レンジを超えるとゼロになります。会計士や弁護士、コンサルタントとして独立している日本人にはこの区分が直接関係します。一方、エンジニアリングや建築はSSTBから除外されています。
OBBBAによる変更点
- 恒久化:2025年末で失効予定だった控除が恒久化されました。
- 逓減レンジの拡大:2026年から単身75,000ドル・夫婦合算150,000ドルに拡大(以後インフレ調整)。基準額をやや超える所得層のSSTBオーナーが恩恵を受けます。
- 最低控除額の新設:積極的に関与する事業(実質的参加)から合計1,000ドル以上のQBIがある納税者には、通常の計算結果が小さくても最低400ドルの控除が保証されます(2026年から、以後インフレ調整)。
- REIT配当・上場パートナーシップ所得の20%控除も恒久化されました。
日本人オーナーが見落としやすいポイント
- S法人の適正給与との関係:S法人オーナーは自営業税の節約のために給与を抑えたくなりますが、給与はQBIから除かれ、W-2賃金制限の計算には有利に働くという相反する効果があります。所得が基準額を超える場合は給与水準の設計が重要です。
- 不動産賃貸:賃貸が「事業(trade or business)」と認められるかが分かれ目です。年間250時間以上の賃貸サービス時間などを条件とするセーフハーバー(Rev. Proc. 2019-38)を満たせば、事業として扱えます。トリプルネットリースのみの物件は原則対象外です。
- 非居住者:日本に住みながら米国内で事業を行い、実質的関連所得(ECI)を申告する場合は、Form 1040-NRでもQBI控除を検討できます。ただし米国外での業務による所得は対象外です。
- 複数事業の集約(Aggregation):共通の支配下にある複数の事業を一体として扱い、W-2賃金制限を有利に計算する選択が可能です。一度選択すると継続適用が原則です。
- 州税:多くの州はQBI控除を州の課税所得計算で認めていません。連邦の節税額をそのまま州にも期待しないようにしてください。
よくある質問
副業のフリーランス収入が少額です。QBI控除は使えますか?
使えます。給与所得と並行して副業のSchedule Cの利益があれば、その20%(課税所得の20%を上限)を控除できます。2026年からは、実質的に参加している事業から1,000ドル以上のQBIがあれば最低400ドルの控除が保証されます。
コンサルタントとして年収30万ドルを超えました。控除はゼロですか?
コンサルティングはSSTBに該当するため、単身で課税所得が276,750ドル(2026年)を超えると控除はゼロになります。夫婦合算申告で課税所得が553,500ドル未満であれば、部分的に控除が残る可能性があります。退職プランへの拠出などで課税所得を基準額付近まで下げることが有効な場合があります。
日本の顧客向けに日本で行った業務の報酬もQBIに入りますか?
入りません。QBIは米国内で行う事業に実質的に関連する所得に限られます。米国居住者が全世界所得として申告する日本での業務報酬は課税対象ではあるものの、QBI控除の計算からは除外する必要があります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則をご確認のうえ、米国税務の専門家にご相談ください。
まとめ
QBI控除はパススルー事業の所得の20%を差し引ける強力な制度で、OBBBAによって恒久化され、2026年からは逓減レンジの拡大と最低400ドルの控除が加わりました。基準額(2026年は単身201,750ドル・夫婦合算403,500ドル)以下なら業種を問わず使えますが、それを超えるとW-2賃金制限やSSTBの制限が効いてきます。給与と分配のバランス、賃貸事業の要件、米国外所得の除外、州税での不適用といった点を押さえ、年末までの拠出や所得調整で基準額を意識した計画を立てることが、控除を最大限に活かす鍵です。
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