日本の会社から米国への赴任が決まると、ビザや住まいの準備と並行して、日本側の税金をどう締めくくるかを考える必要があります。この記事は、1年以上の予定で日本から米国へ移る会社員とその家族を主な対象に、出国の前後に日本で必要になる税務手続きを、時期の順にチェックリストとして整理したものです。
迷いやすいのは、①年末調整で終わるのか確定申告が必要なのか、②住民税はいつまで払うのか、③出国する年のふるさと納税や予定納税はどうなるのか、の3点です。さらに、米国で最初に行う確定申告では、日本で受け取った所得や日本の口座残高の情報が必要になります。出国後に日本の書類を集めるのは手間がかかるため、出国前にそろえておきたい記録もあわせて紹介します。
翌年1月1日に日本に住所があるかどうかで、翌年度の住民税の有無が決まります。年末にかけて出国する予定の方は、ここで全体の流れを確認しておいてください。
結論(要点)
- 1年以上の予定で米国に赴任する人は、一般的に出国の翌日から日本の非居住者になります。給与だけの人は、出国前の最後の給与で年末調整を受けて所得税を精算します。
- 日本の不動産を貸す、医療費控除やふるさと納税の控除を受けたい、給与が2,000万円を超えるなど申告が必要な人は、「納税管理人を届け出て翌年2月16日〜3月15日に申告する」か、「届け出ずに出国の時までに準確定申告をする」かを選びます。
- 住民税は1月1日に住所があった市区町村が前年の所得に課税します。出国した年度の分は払う必要があり、翌年1月1日に日本に住所がなければ翌年度分は課税されません。
- 出国する年のふるさと納税は、住民税からの控除分が実質的に使えない可能性があります。前年分の予定納税基準額が15万円以上の人には、出国年にも予定納税があります。
- 米国の最初の申告に備えて、源泉徴収票、出国後に日本で受け取る給与・賞与の明細、日本の口座残高の記録を出国前にそろえておきます。
出国前後のチェックリスト(時期別)
| 時期 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 赴任決定直後 | 日本に残る所得・資産の棚卸し | 給与以外の所得(不動産、株式、副業)、有価証券等の合計額(国外転出時課税の判定)、NISA・iDeCo の有無を確認 |
| 出国の1〜2か月前 | 申告の方針と納税管理人を決める | 申告が必要なら、日本に住む親族や税理士などを納税管理人に選び、出国の日までに届出書を提出 |
| 出国前の最後の給与 | 年末調整 | 保険料控除申告書などを会社に提出。控除できる保険料は出国日までに支払った分 |
| 出国前の最後の給与 | 住民税の残額の払い方を決める | 一括徴収か普通徴収(本人または納税管理人が納付)かを会社と確認 |
| 出国の前日まで | NISA の届出 | 継続適用届出書(転任の命令などの場合)または出国届出書を金融機関へ |
| 出国の時まで | 準確定申告(該当者のみ) | 納税管理人を置かずに出国し、申告が必要な場合 |
| 出国する年の7月・11月 | 予定納税(該当者のみ) | 前年分の予定納税基準額が15万円以上の場合 |
| 出国翌年の2月16日〜3月15日 | 納税管理人を通じた確定申告(該当者のみ) | 出国年の所得と、出国後の日本の不動産所得など |
| 米国到着の翌年 | 米国の確定申告・FBAR | 到着年は dual-status 申告になることが多い。日本の記録が必要 |
年末調整:出国前の最後の給与で精算する
国税庁によると、海外の支店などに1年以上の予定で転勤すると一般的に所得税法上の非居住者になり、1年未満であれば居住者のままです。非居住者が海外勤務で得る給与には、原則として日本の所得税はかかりません。そのため会社は、居住者としての最後の給与を支払うときに年末調整を行い、その年に源泉徴収した所得税を精算します。対象は、扶養控除等申告書を提出していて、その年の給与が2,000万円以下の人です。
出国時の年末調整で注意する点
- 生命保険料や社会保険料などの保険料控除は、出国する日までに支払った分だけが対象です。
- 配偶者控除や扶養控除の対象になるかは、出国の時の状況で判定します。配偶者や扶養親族の所得は、その年1年分を出国時点で見積もります。
- 医療費控除を受けるには、確定申告書の提出が必要です。ふるさと納税も、ワンストップ特例を使わない場合は確定申告で控除を受けます。
- 出国後に日本で支払われる賞与のうち、計算期間に日本での勤務期間が含まれるものは、日本勤務に対応する部分に 20.42% の源泉徴収が行われます。
米国側から見ると、この賞与には注意が必要です。IRS は、米国居住者である期間に受け取った米国外の所得も課税対象になるとしています。米国到着後に受け取る日本の賞与は、日本で源泉徴収されたうえで米国でも申告対象になり得るため、支給明細と源泉徴収の記録を必ず保管してください。日本で課された所得税は、条件を満たせば米国の外国税額控除(Form 1116)の対象になります。
確定申告が必要な人:納税管理人を置くか、出国前に準確定申告か
給与だけで年末調整が済んでいれば、原則として出国年の確定申告は不要です。一方、次のような人は申告が必要、または申告すると税金が戻る可能性があります。
| ケース | 納税管理人を届け出た場合 | 届け出ずに出国する場合 |
|---|---|---|
| 給与が2,000万円超、または給与以外に一定の所得がある | 出国年の所得を、翌年2月16日〜3月15日に納税管理人を通じて申告・納税 | 出国の時までに準確定申告・納税 |
| 出国後も日本の不動産を貸す | 居住者期間のすべての所得と出国後の不動産所得を合わせて翌年に申告。翌年以降も毎年申告 | 出国までに居住者期間分を準確定申告し、出国後の不動産所得は翌年に納税管理人を通じて申告(結局、納税管理人が必要) |
| 医療費控除やふるさと納税の控除を受けたい | 翌年に納税管理人を通じて申告 | 出国の時までの準確定申告で控除を受ける |
確定申告が必要な人は、納税管理人を定めて「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を納税地の税務署へ提出します。提出期限は、納税管理人を定めたとき、または出国の日までです。e-Tax でも書面でも提出できます。納税管理人は、日本に住む個人でも法人でも構いません。届出をしないまま申告が必要な状態にある場合、2022年1月以降は、税務署から届出を書面で求められたり、税務署が一定の国内関係者を「特定納税管理人」に指定したりすることがあります。
予定納税の通知にも注意
予定納税は、その年5月15日時点で確定している前年分の申告納税額などをもとにした予定納税基準額が15万円以上の人が、その年の所得税の一部を7月と11月に前払いする制度です。東京国税局の案内では、この場合、国外転出する年の収入の有無にかかわらず予定納税が成立するとしています。前年に不動産所得や株式の売却益などで申告納税額が大きかった人は、出国年にも予定納税がある前提で資金を準備し、納税管理人にも伝えておいてください。見込み額が大きく下がる場合は、減額申請の手続もあります。
住民税:1月1日に住所があったかどうかで決まる
個人の住民税は、1月1日(賦課期日)に住所があった市区町村が、前年の所得をもとに課税します(地方税法第313条・第318条)。住所があるかどうかは、原則として住民基本台帳に記録されているかで判断されます。
| 年度 | もとになる所得 | 2026年10月に出国した場合 |
|---|---|---|
| 2026年度 | 2025年1月〜12月の所得 | 2026年1月1日に日本に住所があるため課税。出国後も納付が必要 |
| 2027年度 | 2026年1月〜12月の所得 | 2027年1月1日に日本に住所(住民票)がなければ課税されない |
会社員の住民税は、通常6月から翌年5月まで給与から天引き(特別徴収)されます。出国によって給与の支払を受けなくなったときの扱いは、時期によって異なります(地方税法第321条の5)。
- 6月1日〜12月31日に給与の支払を受けなくなった場合:本人が申し出れば、残りの月割額を最後の給与や退職手当などから一括で徴収してもらえます(支払額が残額を超える場合)。一括徴収されない残額は、普通徴収(納付書などで納付)に切り替わります。
- 1月1日〜4月30日の場合:最後の給与などが残額を超えていれば、残額が一括で徴収されます。
出国後も日本の会社から給与の一部が支払われる場合は、天引きが続くこともあるため、会社の給与担当に確認してください。普通徴収で払う場合は、出国後に届く納付書を受け取って納付する人が必要です。住民税の納税管理人は、所得税とは別に市区町村長へ申告して定めます(地方税法第300条)。
計算例:10月に出国する会社員の住民税
例:2026年度の住民税が年36万円(月割3万円)で、2026年10月の給与を最後に日本の給与支払が止まるとします。11月から2027年5月までの7か月分、3万円×7=21万円が未徴収で残ります。10月の給与などが21万円を超えていれば、申し出て一括徴収してもらうことができます。そうでなければ普通徴収に切り替わり、納税管理人などを通じて納めます。2027年1月1日に日本に住民票がなければ、2026年1月〜10月の給与に対する2027年度の住民税は課税されません。
ふるさと納税:出国する年の寄附は住民税分が戻らないことがある
総務省の説明では、確定申告でふるさと納税の控除を受けると、所得税分はその年の所得税から控除(還付)され、住民税分は翌年度の住民税から控除されます。ワンストップ特例を使った場合は所得税からの控除はなく、全額が翌年6月以降に支払う住民税の減額という形で控除されます。
ここで住民税の1月1日ルールが効いてきます。出国した翌年の1月1日に日本に住所がなければ翌年度の住民税は課税されないため、控除を差し引く相手がありません。出国する年に寄附をすると、住民税分の控除は実質的に受けられない可能性が高くなります。
- ワンストップ特例は、確定申告が不要な給与所得者等で、寄附先が5団体以内の場合の制度です。準確定申告や納税管理人を通じた確定申告をする人は、ふるさと納税も確定申告に含めて控除を受ける必要があります。
- 所得税分の控除は、確定申告をすれば出国年分でも受けられます。国税庁は、寄附金控除は年の途中で出国した場合も適用できるとしています。
計算例:出国年に5万円を寄附した場合
例:所得税率が10%(復興特別所得税を含めて10.21%)で、控除の上限内で5万円を寄附した場合の簡略化した計算です。
- 所得税からの控除:(50,000円-2,000円)×10.21%=約4,900円(確定申告をした場合)
- 住民税からの控除(基本分):48,000円×10%=4,800円
- 住民税からの控除(特例分):48,000円×(100%-10%-10.21%)=約38,300円
本来は合計48,000円が控除されて自己負担は2,000円ですが、翌年度の住民税が課税されなければ住民税分の約43,100円は使えず、実質負担は約45,100円になります。出国する年の寄附は、控除の見込みを確認してから判断してください。米国の申告での扱いは「ふるさと納税はアメリカで寄付金控除になる?」で解説しています。
資産がある人の確認ポイント:国外転出時課税・NISA・iDeCo
国外転出時課税
国外転出(日本に住所・居所を有しなくなること)の時点で、有価証券や未決済のデリバティブ取引などの対象資産を合計1億円以上持ち、原則として出国前10年以内に日本に住所・居所があった期間が5年を超える人は、出国時に対象資産を譲渡したものとみなして含み益に所得税が課されます。出国の時までに納税管理人を届け出て担保を提供するなどの手続をすれば、5年間(延長の届出で最長10年間)納税を猶予でき、期間内に帰国すれば課税を取り消すことができます。詳しくは「日本への「国外転出時課税」と米国「Dual-Status」申告」をご覧ください。
NISA
転任の命令など、やむを得ない事由で一時的に出国する場合は、出国の前日までに金融機関へ「継続適用届出書」を出すと、出国前から持っている商品を引き続き非課税で保有できます(出国中の新たな買付けは不可)。帰国後に「帰国届出書」を出せば、再び買付けができます。帰国届出書の期限は、継続適用届出書を出した日から5年を経過する日の属する年の12月31日です。それ以外の出国では、口座は出国時に廃止されたものとして扱われます。出国年に国外転出時課税の適用を受ける人は継続適用の対象外で、金融機関によっては取扱いがない場合もあります。
iDeCo
2022年5月から、海外に住む人も国民年金に任意加入していれば iDeCo に加入できるようになりました。赴任中に掛金を続けられるかは年金の加入状況によって変わるため、運営管理機関と勤務先に確認しておきます。米国側の扱い(PFIC の問題など)は「日本のNISA・iDeCoは米国で課税対象!PFIC問題と知らずに保有し続けるリスク」で解説しています。
米国の最初の確定申告に向けて出国前にそろえる記録
IRS によると、同じ年に米国の居住者期間と非居住者期間がある人は dual-status となり、最も多いのが到着の年と出国の年です。居住者期間はすべての所得が課税対象で、居住者である間に受け取った米国外の所得も課税されます。非居住者期間の米国外の所得(米国の事業と関連しないもの)は課税されません。また、dual-status の申告では標準控除が使えません。日本の書類は、出国後に取り寄せるより、出国前にまとめておくほうが確実です。
| 記録 | 米国の申告で使う場面 |
|---|---|
| 出国年の源泉徴収票(年末調整後のもの) | 到着年の日本の所得・税額の確認。居住者期間と非居住者期間の所得の区分 |
| 出国後に日本で受け取る給与・賞与の明細と源泉徴収の記録 | 居住者期間に受け取った米国外所得の申告と、外国税額控除(Form 1116) |
| 日本の銀行・証券口座(NISA を含む)の残高がわかる明細 | FBAR(年中いずれかの時点で合計1万ドル超の場合)、Form 8938(米国在住の単身者は年末5万ドル超または年中7.5万ドル超の場合) |
| 株式・投資信託の取得日と取得価額 | 売却したときの損益計算や、PFIC に関する計算 |
| 日本の不動産の取得資料、賃貸契約、日本の申告書の控え | 米国での賃貸収入の申告と、日本で納めた所得税の外国税額控除 |
口座の明細を出国後もオンラインで確認できるか、紙の郵送先をどこにするかは、金融機関と納税管理人の間で決めておくと安心です。到着年の申告の流れは「アメリカ赴任・帰任の年の「Dual-Status(二重身分)」確定申告ガイド」で、口座の報告は「FBARとForm 8938(FATCA)の違い」で解説しています。
よくある質問
年末調整を受ければ、日本の確定申告は不要ですか?
給与だけで年末調整が済んでいれば、原則として不要です。ただし、給与が2,000万円を超える人、出国後も日本の不動産を貸す人、医療費控除やふるさと納税の控除を受けたい人などは申告が必要です。
納税管理人は家族でもよいですか?
はい。日本国内に住所または居所があり、手続の処理に便宜がある人であれば、個人でも法人でも構いません。親族に頼む場合も税理士に頼む場合も、出国の日までに税務署へ届出書を提出します。
赴任期間が1年未満の予定の場合は?
海外勤務が1年未満の予定であれば、一般的に日本の居住者のままで、年末調整も通常どおり行われます。米国側の居住者判定は滞在日数などの別のルールで行われるため、両方を確認してください。
出国後に住民税の納付書が届きました。払う必要がありますか?
出国した年の1月1日に日本に住所があれば、その年度の住民税は前年の所得に対して課税されており、海外にいても納付が必要です。一括徴収で精算していない場合は、納税管理人などを通じて納めてください。
CLT NY INC. では、IRS 公認の米国税理士(Enrolled Agent)が日本語で、米国到着年の dual-status 申告や、日本の所得・口座の米国での申告と報告に対応します。お問い合わせはこちら。
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出典:国税庁 No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収/国税庁 No.1920 海外勤務と所得税額の精算/国税庁 No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合/国税庁 A1-7 所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続/国税庁 No.2040 予定納税/東京国税局「居住者である給与所得者の国外転出時の手続フロー」/国税庁 No.1120 医療費控除/国税庁 No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例/地方税法(e-Gov 法令検索)/租税特別措置法 第37条の14(e-Gov 法令検索)/国税通則法 第117条(e-Gov 法令検索)/総務省「ふるさと納税 税金の控除について」/総務省「ふるさと納税ワンストップ特例制度」/金融庁 NISA特設ウェブサイト よくある質問/厚生労働省「2020年の制度改正」(iDeCo)/IRS: Taxation of dual-status individuals/IRS: Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR)/IRS: Do I need to file Form 8938?/IRS: Foreign Tax Credit。2026 年 10 月時点の情報です。この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務アドバイスではありません。
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