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Net Investment Income Tax(3.8%):投資所得への追加課税と非居住者への非適用

米国株の売却益や配当、賃貸収入が増えてきた年に申告書を見ると、通常の所得税とは別に「Net Investment Income Tax(NIIT、純投資所得税)」として3.8%の税金が加算されていることがあります。2013年に導入されたこの追加課税は、一定の所得を超える人の投資所得に対してかかるもので、基準額がインフレ調整されないため、年々対象者が増えています。この記事では、NIITの計算方法、対象になる所得とならない所得、2026年の基準額、米国非居住者には適用されないというルール、国際結婚夫婦の合算申告での取扱い、そして日本に住む米国市民にとって重要な「外国税額控除で相殺できない」問題を、2026年8月の連邦巡回控訴裁判所の判決も踏まえて解説します。

NIITの計算:投資所得と基準額超過分のいずれか小さい方に3.8%

NIITは、次の2つのうち小さい方の金額に3.8%を乗じて計算します(Form 8960)。

  • その年の純投資所得(Net Investment Income)
  • 修正調整後総所得(MAGI)が基準額を超えた部分
申告区分基準額(インフレ調整なし)
単身・世帯主200,000ドル
夫婦合算・適格寡婦(夫)250,000ドル
夫婦個別125,000ドル
遺産・信託最高税率区分の開始額(2026年は16,000ドル)を超える未分配の純投資所得

たとえば夫婦合算でMAGIが300,000ドル、純投資所得が80,000ドルの場合、基準額超過分は50,000ドルなので、小さい方の50,000ドル×3.8%=1,900ドルがNIITになります。MAGIには外国勤労所得控除(FEIE)で除外した給与を加算して計算するため、FEIEを使う海外居住者は見た目のAGIより基準額に近づきやすい点に注意が必要です。

対象になる所得・ならない所得

対象になる(純投資所得)対象にならない
利子、配当(適格配当を含む)給与、自営業所得、実質的に参加している事業からの所得
株式・債券・仮想通貨・不動産などの売却益(自宅売却益は250,000ドル/500,000ドルの非課税枠を超える部分)401(k)・IRAなど適格退職プランからの分配(ただしMAGIを押し上げる)
賃貸収入・ロイヤリティ(減価償却などの費用控除後)ソーシャル・セキュリティ年金、非課税債(地方債)の利子
受動的活動(パートナーシップやS法人の持分で実質的に参加していないもの)からの所得不動産専門家が事業として行う賃貸の所得(一定の要件下)
非適格年金(Annuity)の運用益部分、金融商品のトレーディング所得生命保険の非課税給付金、アラスカ永久基金配当など

純投資所得の計算では、投資所得に対応する費用(賃貸の経費や減価償却、投資目的の借入利子、州所得税のうち投資所得に対応する部分など)を差し引けます。ただし投資顧問料などの雑項目別控除は所得税法上の控除が恒久的に停止されているため、NIITの計算でも差し引くことはできません。

米国非居住者には適用されない

NIITは米国市民と居住者(グリーンカード保有者、実質的滞在テストを満たす人)に課される税で、米国非居住者(Nonresident Alien)には適用されません。日本に住む日本人投資家が米国株の配当を受け取っても、Form 1040-NRでNIITが課されることはなく、条約に基づく10%の源泉徴収で米国側の課税は完結します。年の途中で居住者から非居住者に切り替わる二重身分の年は、居住者期間の投資所得のみが対象になります。

国際結婚夫婦の合算申告での注意点

米国市民・居住者が非居住者の配偶者と合算申告をするためにSection 6013(g)の選択をしている場合、NIITについては別の選択が用意されています。何もしなければ、非居住者配偶者の投資所得はNIITの対象外ですが、米国側の配偶者は夫婦個別申告の基準額(125,000ドル)でNIITを計算しなければなりません。夫婦でNIITの選択をすれば、非居住者配偶者の投資所得も対象に含めたうえで、夫婦合算の基準額(250,000ドル)を使えます。どちらが有利かは配偶者の投資所得の額によって変わります。

日本に住む米国市民:外国税額控除では相殺できない

日本に住む米国市民や永住者が日本の証券口座で得た配当や売却益は、日本で20.315%が課税されたうえで、米国でも全世界所得として申告する必要があります。通常の所得税は外国税額控除(Form 1116)で日本の税額を差し引けますが、NIITは内国歳入法の第2A章に置かれた税であり、外国税額控除の対象となる第1章の税ではないため、日本で納めた税金でNIITを相殺することはできません。租税条約を根拠に控除を認めるべきだとする納税者の主張は連邦請求裁判所で一部認められていましたが、2026年8月31日、連邦巡回控訴裁判所はBruyea事件とChristensen事件で納税者側の主張を退け、条約に基づく外国税額控除もNIITには適用できないと判断しました。結果として、日本居住の米国市民は基準額を超える投資所得に対して日本の20.315%と米国の3.8%を二重に負担することになります。

NIITを抑えるための実務的な工夫

  • MAGIの管理:401(k)やIRA、HSAへの拠出、自営業者の退職プラン拠出はMAGIを下げ、基準額との差を縮めます。Roth Conversionや大きな売却益は逆にMAGIを押し上げるため、複数年に分散させることが有効です。
  • 損益通算:タックスロス・ハーベスティングで実現した損失は純投資所得を減らします(年間3,000ドルの上限は通常所得との相殺に関するもので、投資所得同士の相殺には制限がありません)。
  • 非課税債:地方債の利子は純投資所得にもMAGIにも含まれません。
  • 不動産:賃貸費用と減価償却を漏れなく計上し、不動産専門家の要件を満たせる場合は賃貸所得を非受動的所得として扱えるかを確認します。
  • 自宅売却:Section 121の非課税枠を超える売却益のみが対象です。取得価額に加算できる改修費を集計しておくことが有効です。
  • 予定納税:NIITは給与からの源泉徴収では賄えないため、予定納税(Estimated Tax)の計算に含めて過少納付のペナルティを避けてください。

よくある質問

IRAから引き出した資金にもNIITがかかりますか?

退職プランからの分配自体は純投資所得に含まれません。ただし分配額はMAGIに含まれるため、他に配当や売却益がある年は、基準額を超えてそれらの投資所得にNIITがかかりやすくなります。

仮想通貨の売却益は対象ですか?

対象です。仮想通貨は税務上、財産として扱われ、売却益はキャピタルゲインとして純投資所得に含まれます。ステーキング報酬なども、事業として行っていない限り投資所得として扱われるのが一般的です。

帰国して日本の居住者になれば、米国株の配当にNIITはかかりませんか?

かかりません。非居住者になった後の投資所得はNIITの対象外です。ただし米国市民や永住権を維持している場合は居住者として扱われるため、日本に住んでいてもNIITの対象になり、日本で納めた税金で相殺することもできません。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。実際の判断にあたっては、最新のIRS規則および裁判例をご確認のうえ、米国税務の専門家にご相談ください。

まとめ

NIITは、単身200,000ドル・夫婦合算250,000ドルという据え置きの基準額を超える人の投資所得に3.8%を課す追加税で、利子・配当・売却益・賃貸収入などが対象になり、給与や退職プランの分配は対象外です。米国非居住者には適用されないため、日本に住む日本人投資家には無関係ですが、日本に住む米国市民・永住者は対象になるうえ、2026年8月の連邦巡回控訴裁判所判決により外国税額控除での相殺もできないことが明確になりました。MAGIの管理、損益通算、費用の計上、予定納税の調整といった基本を押さえ、大きな売却やRoth Conversionを予定する年は事前にシミュレーションしておくことが重要です。

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