米国に住む日本人(グリーンカード保持者や、就労ビザで米国の税務上の居住者になっている人)や米国市民が、日本に残してきた自宅や投資用マンションを売ることは珍しくありません。日本で譲渡所得税を払うことになりますが、米国でも申告が必要です。
米国では利益をドルで計算するため、円で見た損益とは結果が大きく変わることがあります。さらに、貸していた期間の減価償却、自宅の $250,000 非課税枠、日本の税金の外国税額控除など、確認する点がいくつもあります。
日本の「マイホーム特例」も米国の非課税枠も、住まなくなってからの期間に期限があります。売却を考え始めた段階で、日米両方の期限を確認しておきましょう。
結論/要点
- 米国の居住者・市民は、日本の不動産の売却益も米国で申告します。利益はドルで計算するため、円では利益でもドルでは損失(またはその逆)になることがあります。
- 日本では、非居住者でも日本の不動産の譲渡益に課税され、原則として翌年 2 月 16 日から 3 月 15 日に確定申告をします。売った年の 1 月 1 日時点で所有期間が 5 年を超えていれば所得税・復興特別所得税は 15.315%、5 年以下なら 30.63% です。
- 日本で払った譲渡所得税は、米国の外国税額控除(Form 1116)で差し引けます。不動産の売却益は所在地が源泉なので、外国源泉所得になります。
- 自宅だった物件は、売却前の 5 年のうち 2 年以上所有・居住していれば、$250,000(夫婦合算申告は条件を満たせば $500,000)まで米国で非課税にできる可能性があります。ただし、貸していた期間の減価償却分は非課税になりません。
- 円建てのローンを返済する場合は、為替差損益(Section 988)も確認が必要です。
日本側の課税:非居住者でも申告が必要
非居住者は日本国内で生じた「国内源泉所得」だけに課税されますが、日本にある土地・建物の譲渡による所得はこれに含まれます(国税庁 No.2878)。米国に住んでいても、日本の不動産を売って利益が出れば、原則として翌年 2 月 16 日から 3 月 15 日までに確定申告をします。申告が必要な場合は、納税管理人を決めて税務署に届け出ます(国税庁 No.1926)。納税管理人については 米国駐在に出るときの日本側の手続き:納税管理人・住民税の精算・国外転出届 も参考にしてください。
| 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 | |
|---|---|---|
| 所有期間(売った年の 1 月 1 日時点) | 5 年超 | 5 年以下 |
| 所得税 | 15% | 30% |
| 復興特別所得税 | 所得税額の 2.1% | 所得税額の 2.1% |
| 住民税(1 月 1 日に日本に住所がある場合) | 5% | 9% |
個人住民税は、1 月 1 日に市区町村に住所がある人に、前年の所得をもとに課税されます(総務省)。売った年の翌年 1 月 1 日に日本に住所がなければ、譲渡益に住民税はかかりません。
利益は「売った金額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除」で計算します。建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。取得費がわからない場合は、売った金額の 5% を取得費とすることもできます(国税庁 No.3208)。
非居住者に土地・建物の売却代金を支払う人は、原則として代金の 10.21% を源泉徴収します。ただし、買主が個人で、自分や親族が住むために 1 億円以下で買う場合は源泉徴収は不要です(国税庁 No.2884)。源泉徴収された税金は、確定申告で精算します。
マイホームだった場合は「3,000 万円の特別控除」があります。以前住んでいた家は、住まなくなってから 3 年を経過する日の属する年の 12 月 31 日までに売ることが条件の一つです(国税庁 No.3302)。米国に住んでいる人が使えるかどうかを含め、要件は日本の税務署や税理士に確認してください。
米国側:利益はドルで計算する
米国の申告では、売却代金は売ったときのレート、取得価額(購入代金と購入時の費用)や、その後のリフォームなどの改良費は、それぞれ支払ったときのレートでドルに換算します。取得価額は購入時の金額が出発点で、米国の居住者になった時点の時価に置き換わるわけではありません。
| 購入 | 売却 | 円の損益 | ドルの損益 | |
|---|---|---|---|---|
| 例 A | ¥40,000,000(1 ドル=80 円)=$500,000 | ¥48,000,000(1 ドル=150 円)=$320,000 | ¥8,000,000 の利益 | $180,000 の損失 |
| 例 B | ¥50,000,000(1 ドル=150 円)=$333,333 | ¥45,000,000(1 ドル=100 円)=$450,000 | ¥5,000,000 の損失 | $116,667 の利益 |
例 A のように、日本で税金がかかっても、米国ではドルで損失になることがあります。ただし、自宅など個人で使っていた不動産の売却損は、米国では控除できません(Topic 409)。例 B のように、円では損でもドルでは利益になり、米国でだけ税金がかかることもあります。
保有期間が 1 年を超えれば長期キャピタルゲインとして 0%・15%・20% の税率、減価償却に由来する部分(unrecaptured section 1250 gain)は最高 25% の税率です(Topic 409)。所得が一定額を超える場合は、Net Investment Income Tax(3.8%)がかかることもあります(Topic 559)。詳しくは Net Investment Income Tax(3.8%):投資所得への追加課税と非居住者への非適用 をご覧ください。
報告に使う書式は物件の使い方で変わります。自宅は Form 8949 と Schedule D(Publication 523)、事業(trade or business)として貸していた不動産は Form 4797、投資目的で持っていた減価償却資産は一般に Form 8949 と Schedule D です(Form 4797 の説明書)。
貸していた物件:減価償却と「取れたはずの」減価償却
米国外で主に使われている有形資産は、ADS(代替減価償却制度)で償却しなければなりません(Publication 946)。日本の賃貸住宅の建物は、使用開始(placed in service)が 2018 年以降なら 30 年、2017 年以前なら 40 年で償却します(Publication 527)。土地は償却できません。
自宅を賃貸に切り替えた場合は、切り替えた日に使用開始したものとして扱います。減価償却の基礎になる金額は、切り替えた時点の調整後の取得価額と時価のうち、低いほうです(Publication 527、財務省規則 §1.168(i)-4)。
減価償却は、実際に申告で差し引いていなくても、差し引けたはずの額だけ取得価額が減ります(Publication 527)。日本の物件を貸していたのに米国で減価償却を取っていなかった場合も、売却時には減額後の取得価額で計算します。仕組みは 減価償却とデプリシエーション・リキャプチャー:賃貸物件売却時に忘れがちな追加課税を解説 も参考にしてください。
日本の申告でも建物の減価償却費相当額を差し引きますが、計算方法が違うため、日米の数字は一致しません。賃貸中の家賃収入の申告は 日本の年金・不動産収入はアメリカで課税されるか?二重課税を防ぐ外国税額控除の仕組みと入力方法 で解説しています。
自宅だった場合:$250,000 の非課税枠(Section 121)
売る前の 5 年間のうち 24 か月以上所有し、24 か月以上自宅として住んでいれば、利益のうち $250,000(夫婦合算申告で条件を満たせば $500,000)まで米国で非課税にできます。売却前 2 年以内に別の家でこの非課税枠を使っていないことも条件です(Publication 523)。法律の条文は物件の所在地を限定していないため、日本の自宅も対象になり得ます(26 U.S.C. §121)。
- 住まなくなった後、売却前 5 年の範囲内の期間は「非適格使用(nonqualified use)」に数えません。そのため、長く住んだ家でも、住まなくなってから 3 年以内に売れば「5 年のうち 2 年」の条件を満たせます。
- 1997 年 5 月 6 日より後の期間に取れた減価償却の額は、非課税枠の対象外で、課税されます(Publication 523)。
- 自宅の売却損は控除できません(Topic 409)。
日本の 3,000 万円特別控除の期限(住まなくなってから 3 年を経過する日の属する年の 12 月 31 日)と、米国の「5 年のうち 2 年」の条件は、数え方が違います。両方の適用を考えている場合は、早いほうの期限に合わせて売却時期を決めると安心です。米国の非課税枠の基本は アメリカの自宅売却にかかるキャピタルゲイン税と25万ドルの非課税枠(Exclusion)ルールを完全に理解する でも解説しています。
外国税額控除:日本の譲渡所得税を差し引く
不動産の売却益は、物件の所在地が源泉です(Publication 514)。日本の不動産なら外国源泉所得になり、日本で払った所得税・復興特別所得税(住民税がかかった場合はその分も)を、Form 1116 で外国税額控除として検討できます。日米租税条約も、不動産の譲渡益は所在地国(日本)で課税でき、米国は日本の税金について税額控除を認めると定めています。
- 外国税額控除で減らせるのは、外国源泉所得にかかる米国の税金だけです。米国で非課税になった部分(自宅の非課税枠など)には米国の税金がないため、その分に見合う日本の税金は差し引けません。
- 支払った日のレートでドルに換算します。源泉徴収された分は、源泉徴収された日のレートです(Publication 514)。
- 使い切れない分は 1 年繰り戻し、10 年繰り越せます。
- 外国税額控除か項目別控除(deduction)かは、その年の外国の税金すべてについてどちらかを選びます。多くの場合は税額控除のほうが有利です(Publication 514)。
円建てローンの返済と為替差損益(Section 988)
日本の物件を円建てのローンで買っていた場合、売却とあわせてローンを返すと、為替差損益が問題になることがあります。外貨建ての借入れの債務者になることは Section 988 の対象取引で、Section 988 の為替差損益は原則として通常所得・通常損失として扱われます(26 U.S.C. §988)。
例:1 ドル=100 円のときに 3,000 万円($300,000)を借り、1 ドル=150 円のときに 3,000 万円を返すと、ドル換算では $200,000 で返したことになり、差額の $100,000 が為替差益とされる可能性があります。
一方、個人の私的な取引(personal transaction)には Section 988 のルールは適用されません。投資・賃貸用のローンか自宅用のローンかで扱いが変わるため、未実現の為替差益とSection 988 (Forex Gains): 円安による「ファントムゲイン」の課税リスクと免税範囲 を参考に、個別に確認してください。
計算例
例:2016 年 1 月に東京のマンションを 3,000 万円(土地 1,200 万円、建物 1,800 万円)で購入して住み、2024 年 1 月に米国へ移住。2024 年 2 月から 2 年間賃貸し、2026 年 9 月に 6,000 万円で売却(仲介手数料など 210 万円)。為替は購入時 1 ドル=120 円、売却時 1 ドル=150 円、賃貸開始時の時価は取得価額より高いと仮定します。単身で、米国の税務上の居住者とします。
| 米国の計算 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 売却代金 | ¥60,000,000 ÷ 150 | $400,000 |
| 譲渡費用 | ¥2,100,000 ÷ 150 | −$14,000 |
| 取得価額 | ¥30,000,000 ÷ 120 | $250,000 |
| 減価償却(簡略計算) | 建物 $150,000 ÷ 30 年 × 2 年 | $10,000 |
| 調整後の取得価額 | $250,000 − $10,000 | $240,000 |
| 利益 | $386,000 − $240,000 | $146,000 |
| 自宅の非課税枠 | 減価償却分を除く | −$136,000 |
| 課税される利益 | 減価償却分(税率は最高 25%) | $10,000 |
| 日本の計算 | 金額 |
|---|---|
| 収入金額 | ¥60,000,000 |
| 取得費(建物の減価償却費相当額を引いた後。仮定) | −¥25,000,000 |
| 譲渡費用 | −¥2,100,000 |
| 譲渡所得(長期) | ¥32,900,000 |
| 所得税・復興特別所得税(3,000 万円控除なし) | ¥5,038,635 |
| (参考)3,000 万円控除が使える場合 | ¥444,135 |
| 住民税 | 翌年 1 月 1 日に日本に住所がなければなし |
| 買主が法人の場合の源泉徴収(10.21%) | ¥6,126,000(確定申告で精算) |
米国では、利益 $146,000 のうち $136,000 が非課税になり、課税されるのは減価償却分の $10,000 です(2021 年 9 月から 2024 年 1 月まで住んでいたので、売却前 5 年のうち 2 年以上居住の条件を満たします)。これにかかる米国の税金(最高 25% なら最大 $2,500)は、日本で払った税金を外国税額控除として、Form 1116 の限度額の範囲で差し引けます。3,000 万円控除を使わない場合の日本の税金は約 $33,591(¥5,038,635 ÷ 150)で、米国の非課税部分に対応する日本の税金は米国では使えません。
よくある質問
売却代金を日本の銀行口座に入れたら、報告は必要ですか?
直接持っている外国の不動産そのものは FBAR や Form 8938 の報告対象ではありませんが、売却代金を入れた日本の銀行口座は報告対象になります(IRS)。口座の合計残高が年中いずれかの時点で $10,000 を超えれば FBAR が必要です。詳しくは FBARとForm 8938(FATCA)の違い:報告基準額・対象資産・期限・罰則を一覧で比較【2026年版】 をご覧ください。
相続した日本の不動産を売る場合は?
相続した不動産は、取得価額の考え方が日米で異なります。相続時のステップアップ・ベーシス:米国不動産・株式の取得価額引き上げと日本の取得費引継ぎとの違い で解説しています。
日本で売却損が出た場合、米国でも損失にできますか?
米国ではドルで計算し直すため、結果が変わります。自宅の売却損は控除できません。自宅から賃貸に切り替えた物件は、切り替えた時点の調整後の取得価額が時価より高かった場合、控除できる損失が制限されます(Publication 544)。
日本に住んでいる米国市民が売る場合は?
日本の居住者として日本で確定申告をし、翌年 1 月 1 日に日本に住所があれば住民税もかかります。米国でも全世界所得として申告し、日本の税金は外国税額控除で調整します(Publication 54)。
CLT NY INC. では、IRS 公認の米国税理士(Enrolled Agent)が日本語で、日本の不動産を売却した方の米国確定申告(Form 8949・Form 4797・Form 1116 など)に対応します。お問い合わせはこちら。
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出典:IRS Publication 54 (2025)/IRS: Foreign currency and currency exchange rates/IRS Publication 523 (2025)/IRS Publication 527 (2025)/IRS Publication 946 (2025)/IRS Publication 544 (2025)/IRS: Instructions for Form 4797 (2025)/IRS Topic No. 409/IRS Topic No. 559/IRS Publication 514 (2025)/IRS: Comparison of Form 8938 and FBAR requirements/26 U.S.C. §121(govinfo.gov)/26 U.S.C. §988(govinfo.gov)/26 CFR §1.168(i)-4(eCFR)/日米租税条約(2003 年署名、米財務省)/国税庁 No.2878/国税庁 No.1926/国税庁 No.1440/国税庁 No.3208/国税庁 No.3211/国税庁 No.3302/国税庁 No.2884/総務省 個人住民税。2026 年 10 月時点の情報です。この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務アドバイスではありません。
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