米国の会社の中には、給与天引きで自社株を割引価格で買える ESPP(Employee Stock Purchase Plan、従業員株式購入プラン)を用意しているところがあります。割引で株を買えるのは魅力ですが、売却した年の税金の計算は、RSU や通常の株式とは仕組みが異なります。
特に注意したいのが、証券会社から届く Form 1099-B の取得価額(cost basis)です。多くの場合、そこには給与として課税された割引分が含まれていないため、そのまま申告すると同じ所得に二重に課税されてしまいます。この記事では、IRS の Publication 525 や Form 3922・Form 8949 の説明にもとづき、ESPP 株を売ったときの税金の考え方を、数字の例とあわせて整理します。
売却後に日本へ帰国した場合や、帰国してから売却する場合の注意点もまとめました。2026 年中に ESPP 株を売った方、これから売却を考えている方は、申告の準備に役立ててください。
結論/要点
- 税制適格の ESPP(Section 423 のプラン)で買った株は、購入(オプションの行使)の時点では課税されず、売却した年に課税されます。
- 付与日から 2 年、かつ購入日から 1 年を過ぎてから売る「適格処分(qualifying disposition)」では、給与扱いの普通所得は「付与日時点の割引額」と「実際の売却益」の少ない方に限られ、残りは長期キャピタルゲインです。
- 保有期間を満たさない「不適格処分(disqualifying disposition)」では、購入日の時価と購入価格の差額が普通所得になります。売却益が少なくても、損が出ても、この金額は変わりません。
- 普通所得は W-2 の Box 1 に含まれますが、社会保障税・メディケア税はかからず、所得税の源泉徴収も義務ではありません。
- 2014 年以降に付与されたオプションでは、Form 1099-B の取得価額に普通所得分が含まれません。Form 8949 で取得価額を調整(コード B)しないと二重課税になります。
ESPP の仕組みと主な用語
ESPP では、一定の期間(オファリング期間)に給与から天引きで資金を積み立て、購入日にまとめて自社株を購入します。税法上は、会社が従業員に「株を買う権利(オプション)」を付与し、購入日にそのオプションを行使する、と整理されます。
- 付与日(grant date):オプションが与えられた日です。
- 購入日(exercise date):オプションを行使して株を買った日。保有期間は購入日の翌日から数えます。
- 購入価格(option price):実際に支払った 1 株あたりの価格。付与日と購入日の株価の低い方を基準にするプランもあります。
- 時価(FMV):付与日・購入日それぞれの公正市場価格。課税計算の基礎になります。
Publication 525 によると、税制適格のオプションとして扱われるには、付与日から行使日の 3 か月前まで継続してその会社(または関連会社)の従業員であることなどの要件があります。給与天引きのタイミングや金額は、取得価額に影響しません。
Form 3922 の見方
会社は、ESPP の購入価格が付与日の時価の 100% 未満である場合(または付与日に価格が確定していない場合)、株式の名義を最初に移転した年ごとに Form 3922 を作成し、従業員に交付します。各欄の内容と使い道は次のとおりです。
| 欄 | 記載内容 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| Box 1 | オプションの付与日 | 適格処分かどうかの判定(付与日から 2 年) |
| Box 2 | オプションの行使日(購入日) | 適格処分の判定(購入日から 1 年)と、短期・長期の区分 |
| Box 3 | 付与日の 1 株あたり時価 | 適格処分の普通所得の計算 |
| Box 4 | 購入日の 1 株あたり時価 | 不適格処分の普通所得の計算 |
| Box 5 | 1 株あたりの購入価格 | 取得価額のもとになる金額 |
| Box 6 | 名義が移転された株数 | 売却した株との突き合わせ |
| Box 7 | 名義が最初に移転された日 | 記録用 |
| Box 8 | 付与日に行使したとみなした場合の 1 株あたり購入価格(付与日に価格が確定していない場合のみ) | 適格処分の普通所得の計算 |
Form 3922 は申告書に添付する書類ではありませんが、売却時の計算に欠かせないため、購入ごとに保管しておきましょう。なお、IRS の説明では、付与日の属する年から最初の名義移転の年まで W-2 の交付を受けていない非居住外国人の従業員については、Form 3922 の作成が不要とされています。
適格処分と不適格処分の違い
ESPP 株を売ったときの課税は、保有期間の要件を満たすかどうかで大きく変わります。Publication 525 では、付与日から 2 年、かつ株式が移転されてから 1 年の両方が過ぎるまで売らなかった場合に保有期間の要件を満たすとしています。
| 項目 | 適格処分(qualifying) | 不適格処分(disqualifying) |
|---|---|---|
| 保有期間 | 付与日から 2 年、かつ購入日から 1 年が経過 | 左の要件を満たさない |
| 普通所得(給与) | ①付与日の時価 − 購入価格(付与日に行使したとみなした価格)、②売却時の時価 − 実際の購入価格、の少ない方 | 購入日の時価 − 購入価格(売却損益に関係なく発生) |
| 売却損が出た場合 | 普通所得はゼロで、損失はキャピタルロス | 普通所得はそのまま発生し、売却損はキャピタルロス |
| 取得価額 | 購入価格 + 普通所得 | 購入価格 + 普通所得 |
| キャピタルゲインの区分 | 長期 | 購入日の翌日から 1 年以内の売却なら短期、それより後なら長期 |
いずれの場合も、普通所得は勤務先(退職後は元の勤務先)が W-2 の Box 1 に含めて報告することになっています。W-2 に含まれていない場合でも、申告書で給与として申告する必要があります。
計算例:同じ株でも売り方で税金が変わる
例:次の条件で 100 株を購入したとします(説明のための仮の数字です)。付与日の時価 $100、購入日の時価 $120。プランは「付与日と購入日の株価の低い方の 85%」で購入でき、購入価格は $85($100 × 85%)、購入額は $8,500 です。付与日に行使したとみなした購入価格(Form 3922 の Box 8)も $85 です。
| ケース | 売却の条件 | 普通所得(W-2 Box 1) | 取得価額(調整後) | キャピタルゲイン(ロス) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 購入から 6 か月後に $130 で売却(不適格) | $3,500((120 − 85) × 100) | $12,000 | +$1,000(短期) |
| 2 | 保有期間を満たして $130 で売却(適格) | $1,500((100 − 85) × 100 と (130 − 85) × 100 の少ない方) | $10,000 | +$3,000(長期) |
| 3 | 保有期間を満たして $80 で売却(適格) | $0(売却損のため) | $8,500 | −$500(長期) |
| 4 | 購入から 6 か月後に $90 で売却(不適格) | $3,500(売却損益に関係なく発生) | $12,000 | −$3,000(短期) |
ケース 1 と 2 の売却代金はどちらも $13,000 で、売却益の合計($4,500)も同じです。違うのは、そのうちどれだけが給与(普通所得)として課税されるかと、キャピタルゲインが短期か長期かです。ケース 4 のように、不適格処分では株価が購入後に下がっても普通所得 $3,500 は残り、売却損 $3,000 はキャピタルロスとして扱われます。
Form 1099-B の「取得価額の落とし穴」と Form 8949 での調整
証券会社が発行する Form 1099-B には、売却代金と取得価額が記載されます。ところが、Publication 525 と Form 8949 の説明によると、2014 年 1 月 1 日以降に付与されたオプションでは、1099-B の取得価額には付与時や行使時に所得に含めた金額が反映されません。上の例でいえば、1099-B の取得価額は購入額の $8,500 のままです。
| ケース | 1099-B の取得価額のまま申告した場合 | 正しい申告 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1 | 売却益 $4,500 | 売却益 $1,000(普通所得 $3,500 は W-2 で課税済み) | $3,500 を二重に課税 |
| 2 | 売却益 $4,500 | 売却益 $3,000(普通所得 $1,500 は W-2 で課税済み) | $1,500 を二重に課税 |
| 4 | 売却益 $500 | 売却損 $3,000 | 損失 $3,000 を見落とし、利益 $500 を計上 |
取得価額の調整は本人の責任とされています。Form 8949 では、次のように調整します。
- 1099-B で「取得価額が IRS に報告済み」とされている取引(Form 8949 の Box A・D など)は、1099-B の取得価額をそのまま (e) 欄に書き、(f) 欄にコード B、(g) 欄に調整額(上の例なら普通所得の額)を記入します。
- 取得価額が IRS に報告されていない取引(Box B・E など)は、(e) 欄に正しい取得価額を書き、(f) 欄にコード B、(g) 欄に 0 を記入します。
- 普通所得の額は W-2 の Box 1 に含まれているはずなので、給与明細や会社の株式報酬の資料で金額を確認します。
2013 年以前に付与されたオプションについては、1099-B の取得価額に普通所得分が含まれている場合も含まれていない場合もあるため、個別に確認が必要です。
W-2 との関係:社会保障税と源泉徴収
Publication 15-B によると、ESPP のオプションの行使や、取得した株の売却によって生じる報酬は、社会保障税・メディケア税(FICA)および FUTA の対象となる賃金に含まれません。また、不適格処分による所得や、適格処分の割引部分について、連邦所得税の源泉徴収は義務づけられていません。一方で、会社はこれらの普通所得を W-2 の Box 1 に含めて報告します。
そのため、ESPP の普通所得には給与天引きで所得税が差し引かれていないことが多く、売却した年は確定申告での納税額が増えることがあります。売却額が大きい場合は、予定納税(Estimated Tax)や Form W-4 による源泉徴収額の調整を検討しましょう。なお、非適格ストックオプション(NSO)の行使益は W-2 の Box 12 コード V で報告され、社会保障税・メディケア税の対象になる点で ESPP と異なります。
日本に帰国した後に売却する場合
米国側の考え方
売却時に米国の非居住外国人(日本の居住者)になっている場合、Publication 519 では、動産の譲渡益の源泉地は原則として売り手の「tax home(主な勤務地など)」で判定され、米国に tax home がなければ国外源泉とされています。また、非居住外国人の米国源泉のキャピタルゲインは、その年に米国に 183 日以上滞在した場合に 30%(または条約上の軽減税率)で課税されるルールです。このため、ESPP 株のキャピタルゲイン部分は、帰国後の売却であれば米国で課税されないケースが多いと考えられます。
注意が必要なのは、普通所得(給与)部分です。これは勤務の対価であり、Publication 519 では、複数年にわたる勤務に対応する報酬は、その期間のうち米国で勤務した日数の割合で米国源泉を判定するとしています。米国勤務中に付与・購入した ESPP 株を帰国後に売った場合、普通所得の全部または一部が米国源泉所得となり、Form 1040-NR での申告が必要になる可能性があります。
また、米国市民やグリーンカードを保持したままの方は、日本に住んでいても全世界所得で米国の申告が必要です。帰国した年は、居住者と非居住者の期間が混在する Dual-Status の申告になることもあります。
日本側の考え方
日本の居住者(非永住者以外)は、国内外のすべての所得が課税対象です。外国の金融商品市場で売買されている株式は「上場株式等」に当たり、その譲渡益は申告分離課税で、税率は 20%(所得税 15%、住民税 5%)に、所得税額の 2.1% の復興特別所得税が加わります。国税庁の質疑応答事例では、外国株式を外貨建てで売った場合、譲渡対価を円に換算した額を収入金額とし、為替差損益を別の所得として区分する必要はないとされています。
ESPP 株の日本での取得費の考え方は、米国の調整後の取得価額と一致するとは限りません。購入日・購入価格・時価・為替レートがわかる資料(Form 3922、購入時の取引明細、W-2 など)を帰国前にそろえておくことが大切です。日米両方で課税される場合の外国税額控除については、関連記事を参照してください。
よくある質問
ESPP で株を買った年に、何か申告は必要ですか?
Publication 525 では、税制適格のオプションは付与時・行使(購入)時のいずれも所得に含めないとしています。売却するまでは原則として課税されませんが、Form 3922 は売却時の計算に必要なので保管しておきましょう。
1099-B の取得価額が、自分の購入額と W-2 の金額の合計と合わないのはなぜですか?
2014 年以降に付与されたオプションでは、1099-B の取得価額に給与として課税された普通所得が含まれないためです。Form 8949 でコード B を使って調整します。
ESPP の普通所得に社会保障税はかかりますか?
かかりません。Publication 15-B によると、ESPP のオプションの行使や株の売却による報酬は、社会保障税・メディケア税・FUTA の対象となる賃金に含まれません。
退職した後に売却した場合、W-2 はどうなりますか?
Publication 525 では、普通所得は勤務先または元の勤務先が W-2 の Box 1 で報告するとしています。退職後に売却した場合も、元の勤務先から W-2 が発行されることがあるので、届いた W-2 の内容を確認してください。
CLT NY INC. では、IRS 公認の米国税理士(Enrolled Agent)が日本語で、ESPP・RSU などの株式報酬を含む確定申告や、帰国前後の申告に対応します。お問い合わせはこちら。
関連記事
- RSUとストックオプション(ISO/NSO)の確定申告:権利確定時と売却時の課税タイミングの違いを徹底解説
- RSUとストックオプションの課税タイミング:テック企業勤務者のための完全ガイド – Vestingから売却、二重課税防止まで
- 米国株・仮想通貨の損失繰越(Capital Loss Carryover)ルール:年間3,000ドル控除を活用する節税術
- 帰国前チェックリスト:米国銀行口座・証券口座・401(k)を閉じる前に確認すべき税務ポイント
- 駐在員必見!アメリカ赴任・帰任の年の「Dual-Status(二重身分)」確定申告ガイド
- 帰国後の日本の確定申告:米国の給与・株式・不動産所得を日本でどう申告し外国税額控除を受けるか
出典:IRS「Publication 525 (2025), Taxable and Nontaxable Income」/IRS「Instructions for Forms 3921 and 3922 (04/2025)」/IRS「Instructions for Form 8949 (2025)」/IRS「Publication 15-B (2026)」/IRS「Publication 519 (2025), U.S. Tax Guide for Aliens」/国税庁 タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)/国税庁 タックスアンサー No.2010 納税義務者となる個人/国税庁 質疑応答事例「外貨建取引による株式の譲渡による所得」。2026 年 10 月時点の情報です。この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務アドバイスではありません。
TAX PREPARER 乗り換えキャンペーン
アメリカの確定申告(タックスリターン)、今年は昨年の 50% OFF で。
他の Tax Preparer から乗り換えるだけ。昨年の Invoice を送っていただければ、申告報酬が昨年の 50% OFF(最大 $500・初年度のみ)。IRS 公認の米国税理士(EA)が日本語で対応します。
乗り換えキャンペーンを見る →はじめて頼む方・ご自身で申告していた方は、個人の確定申告のページへ →
