日米社会保障協定というと、「駐在中にFICA税(社会保障税)の二重払いを免除してもらう制度」というイメージを持つ方が多いですが、実はもう一つ、帰国後の年金受給に直結する重要な機能があります。それが「加入期間の通算(Totalization)」です。米国での勤務期間が短く、単独では米国の年金受給資格を満たせない場合でも、日本での加入期間と通算することで受給資格を得られる可能性があります。FICA税免除の仕組みについては別記事で解説していますので、本記事では帰国後の年金受給資格に焦点を当てて解説します。
米国の年金には「40クレジット(10年)」の最低加入期間がある
米国の社会保障年金(Social Security)を受給するには、原則として40クレジット(おおむね10年間の加入)が必要です。駐在期間が数年程度で帰国した場合、米国での加入期間だけではこの最低ラインに届かないことがほとんどです。この場合、通常であれば米国で積み立てた保険料はそのまま「掛け捨て」になってしまいます。
加入期間の通算(Totalization)とは
日米社会保障協定は、この問題を解決するために「加入期間の通算」という仕組みを設けています。米国での加入期間が40クレジットに満たない場合でも、日本の厚生年金・国民年金の加入期間を米国側の受給資格判定に「通算」することで、40クレジットの最低ラインをクリアできる可能性があります。重要なのは、この通算はあくまで「受給資格があるかどうか」の判定のために行われるものであり、実際に米国から支払われる年金額は、あくまで米国で実際に加入していた期間・収入に基づいて按分計算される点です。日本での加入期間を通算したからといって、米国の年金額そのものが増えるわけではありません。
日本側の年金受給資格にも通算は関係する
逆に、日本の年金制度側でも同様の通算が可能です。もっとも、2017年8月の制度改正により、日本の年金(国民年金・厚生年金)の受給資格期間は25年から10年(120ヶ月)に短縮されたため、以前に比べると「日本側の受給資格を満たすために米国期間の通算が必要になる」ケースは少なくなっています。ただし、日本での就労期間が10年に満たない海外駐在経験者にとっては、依然として重要な救済策になり得ます。
申請の流れ
米国の年金受給を申請する際、日本での加入期間の通算を希望する場合は、米国社会保障庁(SSA)に対して日本での加入期間を証明する書類とともに申請を行います。日米社会保障協定に基づき、SSAと日本年金機構の間で加入期間の照会・確認が行われる仕組みになっているため、基本的には申請者自身が日本年金機構から複雑な証明書を取り寄せる必要はありませんが、基礎年金番号や厚生年金の加入記録など、手元の資料を整理しておくとスムーズです。日本側の年金についても、日本年金機構に対して同様に米国での加入期間の通算を申請できます。
よくある質問
Q. 米国での加入期間が2〜3年程度しかなくても、通算すれば米国から年金がもらえますか?
A. 通算により受給資格自体は得られる可能性がありますが、実際に支払われる年金額は米国での実加入期間・収入に基づいて計算されるため、加入期間が短ければ受給額もごくわずかになります。それでも、本来であれば掛け捨てになっていた保険料から一定の給付を受けられるという点で意味のある制度です。
Q. Certificate of Coverage(適用証明書)を取得していなかった場合、通算の申請はできませんか?
A. Certificate of Coverageは、駐在中の二重加入・二重納付を防ぐための証明書であり、帰国後の加入期間通算の申請とは別の手続きです。駐在中にCertificate of Coverageを取得していなかった場合でも、実際に米国の社会保障制度に加入し保険料を納付していた期間があれば、その期間は通算の対象になり得ます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の年金相談に代わるものではありません。実際の受給資格・受給額の計算は個々の加入記録によって異なるため、具体的な申請にあたっては日本年金機構および米国社会保障庁、または専門家にご確認ください。
まとめ
日米社会保障協定は、駐在中の二重払い防止だけでなく、帰国後に「掛け捨てになりかねない」米国での年金保険料を、日本の加入期間との通算によって受給資格に結びつける役割も担っています。米国での勤務期間が10年に満たない状態で帰国した方は、将来の年金申請時にこの通算制度を忘れずに活用することをおすすめします。
