2022年から2024年の3年間、米国のスタートアップや技術系企業を苦しめてきたのが、研究開発費(R&E:Research and Experimental Expenditures)の「資産計上・5年償却」ルールでした。開発者の給与を即時に経費計上できず、赤字なのに課税所得が出る、という事態が各地で起きていました。2025年7月4日に成立したOne Big Beautiful Bill Act(OBBBA)は、この扱いを大きく変えました。本記事では、新設されたSection 174Aの内容、過去分の取り戻し方、そしてR&D税額控除との関係を整理します。
何が変わったのか:国内R&Eの即時償却が復活
OBBBAにより新設されたSection 174Aのもとでは、2024年12月31日より後に開始する課税年度に発生した米国内の研究開発費は、発生した年に全額を経費として控除できるようになりました(暦年法人であれば2025年分から適用)。従来どおり資産計上して60か月以上で償却する方法や、10年償却を選ぶことも可能です。
ここで重要なのは「米国内」という限定です。米国外で行われた研究開発費(Foreign R&E)は、引き続き15年での資産計上・償却が求められます。日本本社の開発チームに委託した開発費用を米国子会社が負担している場合、その部分は即時償却の対象にならない可能性があるため、費用の発生場所を区分して管理する必要があります。
2022〜2024年に資産計上した費用の取り戻し
過去3年間に資産計上した国内R&Eの未償却残高について、OBBBAは2つの救済を用意しました。
- 小規模事業者(過去3年の平均年間総収入が3,100万ドル以下):2022〜2024年分の申告書を修正申告し、遡って即時控除を適用する選択ができました。ただし、この選択の期限は2026年7月上旬までとされており、本記事公開時点(2026年9月)ではすでに経過しています。
- それ以外の事業者(および期限を過ぎた小規模事業者):2022〜2024年に資産計上した国内R&Eの未償却残高を、2025年の課税年度に一括で控除するか、2025年と2026年の2年に分けて控除する「キャッチアップ控除」を選択できます。
R&D税額控除(Section 41)との関係
研究開発費の「控除」とは別に、適格研究費に対する「R&D税額控除(Research Credit)」は従来どおり利用できます。ただし、OBBBAはSection 280Cを改正し、即時控除する国内R&Eの金額を税額控除の額だけ減額する扱いに戻しました。代わりに、R&E費用を減額せずに税額控除の方を法人税率(21%)相当分だけ減らす選択(Reduced Credit Election)も引き続き可能です。どちらが有利かは、その年の課税所得と控除額の関係で変わるため、申告時に試算が必要です。
日系スタートアップにとっての実務ポイント
- 開発者の給与、外部委託費、クラウド利用料など、R&Eに該当する費用を「米国内」「米国外」に分けて集計する体制を整える
- 2022〜2024年分の未償却残高を確認し、2025年・2026年のキャッチアップ控除をどう配分するか、課税所得の見通しをもとに決める
- R&D税額控除の申請(Form 6765)とSection 280Cの選択を、控除の取り方とセットで検討する
- 州税は連邦の改正に自動的には追随しない場合があるため、州ごとの取り扱いを確認する
よくある質問
Q. ソフトウェア開発の人件費はR&Eに該当しますか?
A. 税法上、ソフトウェア開発費は研究開発費として扱われます。新機能の開発に従事する開発者の給与や、開発を外部委託した費用は原則としてR&Eに該当し、Section 174Aの対象になります。保守や単純なバグ修正の扱いなど境界的な費用は、専門家に確認してください。
Q. 日本の親会社が日本で行った開発の費用を米国子会社が負担している場合はどうなりますか?
A. 研究が米国外で行われている場合、その費用は「Foreign R&E」として15年償却の対象になる可能性が高く、即時控除は使えません。加えて、親子会社間の費用負担は移転価格税制の観点からも妥当性の裏付けが必要です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスに代わるものではありません。制度の適用にはIRSのガイダンスの確認が必要なため、実際の申告にあたっては専門家にご相談ください。
まとめ
OBBBAにより、2025年以降の米国内の研究開発費は即時に経費計上できるようになり、2022〜2024年に資産計上した残高も2025年・2026年で取り戻せます。一方、米国外での研究開発費は引き続き15年償却のままです。費用の発生場所の区分、キャッチアップ控除の配分、R&D税額控除との組み合わせを、2025年分の申告で計画的に設計することをおすすめします。
